利用報告書
課題番号 :S-14-MS-0032
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :新規違法薬物3,4-dichloromethylphenidateの合成
Program Title (English) :Synthesis of a new psychoactive substance 3,4-dichloromethylphenidate
利用者名(日本語) :辻川健治
Username (English) :Kenji Tsujikawa
所属名(日本語) :科学警察研究所
Affiliation (English) :National Research Institute of Police Science
1.概要(Summary )
3,4-ジクロロメチルフェニデートは、中枢興奮薬メチルフェニデートのアナログであり、欧州を中心に乱用されている薬物である。この薬物は1組のジアステレオマーを有するが、いずれとも医薬品医療機器等法の指定薬物として規制を受けている。この薬物の鑑定に備えるためには標準品を準備する必要があるが、現時点では標準品は販売されておらず、また、当研究所での合成も困難であったため、対応に苦慮していた。
そこで、分子科学研究所で3,4-ジクロロメチルフェニデートを合成して頂き、得られた標準品について当研究所でジアステレオマー間の識別を念頭においてGC/MSを行い、今後の薬物鑑定のための基礎データを収集した。
2.実験(Experimental)
1 3,4-ジクロロメチルフェニデートの合成
3,4-ジクロロフェニル酢酸を酸触媒でメチルエステル化し、そのメチルエステル(1)を得た。(1)をジアゾ化し、(3,4-ジクロロフェニルジアゾ)酢酸メチルエステル(2)を得た。次に、Rh2(S-DOSP)4またはRh2(R-DOSP)4を触媒に用いて、(2)とBoc-ピペリジンからN-Boc-3,4-ジクロロメチルフェニデートをエリスロ体とスレオ体の混合物として得、両異性体をクロマトグラフィにより分離した。最後にBoc基を酸で除去し、3,4-ジクロロメチルフェニデートのエリスロ体とスレオ体を各々塩酸塩として得た。得られた化合物はNMRスペクトルの文献値との比較により構造を確認した。
2 3,4-ジクロロメチルフェニデートのGC/MS分析
各合成品の水溶液をアンモニアアルカリ性下で酢酸エチル抽出し、遊離塩基を調製した。また、各合成品に無水トリフルオロ酢酸を加えてトリフルオロアセチル(TFA)誘導体を調製した。遊離塩基とTFA誘導体について、以下の条件でGC/MSを行った。
装置:島津製作所GCMS-QP2010Ultra、カラム:J&W DB-5ms(長さ30 m、内径0.25 mm、膜厚0.25 m)、キャリアガス:He、1 ml/min(線速度一定)、注入口温度:250C、注入法:スプリットレス(1 min)、カラム温度:50C(1 min)→300C、15C/minで昇温
3.結果と考察(Results and Discussion)
3,4-ジクロロメチルフェニデートの遊離塩基を分析した場合、いずれのジアステレオマーからも同一の保持時間及び質量スペクトルを有する1本のピークのみが検出された。このピークは3,4-ジクロロメチルフェニデートの脱ピペリジン体に相当する3,4-ジクロロフェニル酢酸メチルエステルと合致したことから、3,4-ジクロロメチルフェニデート遊離塩基はGC/MS時に著しく熱分解を起こすことが明らかとなった。一方、TFA誘導体化後にGC/MSを行ったところ、3,4-ジクロロメチルフェニデートは熱分解を起こすことなく分析でき、エリスロ体とスレオ体のピークは良好に分離した。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし