利用者インタビュー

ジャイアントコンブがきっかけ

―まず先生の研究について教えてください。

これまで、海藻やウニなどの海産物やマツなどの樹木から抽出した自然由来の天然物で、抗がん剤の開発を行ってきました。現在は、その研究を一歩進めて、がんを予防する物質を見つけようと考えています。

―先生の経歴を振り返ると、約30年にわたり北海道の利尻島に単身赴任されていますね。

島に渡った当初は、ウニの生殖メカニズムについて研究を行っていました。皆さんがおいしいと言って食べているウニですが、当時、生殖メカニズムは解明されていなかったのです。そこで、ウニの内臓などから産卵誘発物質を見つけようと研究を重ね、それがGABA(ガンマアミノ酪酸)だということを見つけました。その後、札幌医科大学付属臨海医学研究所に所属していましたので、もっと医学的な研究へとベクトルを向けました。所長だった菊地教授からがん細胞のことを聞かされ、自然由来の天然物でがん細胞の増殖を抑える研究をテーマにしました。増殖させる研究から増殖を抑える研究に変わったわけです。1990年ごろ、ジャイアントコンブを分析していた友人から粗フコイダン分画をもらい受け、がん細胞の培地に添加したところ、2?3日後には元の正常な細胞に戻っていたのです。その現象を見たことが大きな動機となり、少しでもがん患者の方に役立つ研究をと強く考えるようになりました。

―海洋生物に関心を持つようなったのはどうしてなのですか。

林学者だった私の父親は東京大学北海道演習林の元林長で、同大学の名誉教授も務めた人です。“どろ亀”の愛称で親しまれ、その世界では名の知れた人でした。そんな父親を超えることは難しいと思いましたね。ならばと、私の趣味は釣りでしたので、別の世界である海のことについて研究することにしました。

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研究対象は海から陸へ

―ところが、大学を退官後は、樹木などの陸上生物に研究対象が変わっていますよね。

先ほど林学者だと話した父親は、ネズミに強いグイマツの開発も行っていたのです。そのことを覚えていましたので、北海道大学植物園で伐採したグイマツとアカエゾマツをもらい受け、有効利用できないか考えました。アカエゾマツとグイマツの自然由来の天然物を抽出してみたら、驚くことにその精油は微量でがん細胞を殺傷する能力があることが分かったのです。

―最初からそのような結果が出ると思っていましたか。

まったく思っていませんでした。ただ、イチイという木の樹皮から抽出されるタキソールという物質は乳がんの治療薬に使われていますので、淡い期待は持っていました。アロマの歴史はとても古く、これまで何らかの効果があると信じられてきました。そういった人間の経験則は大事にしたいですね。アカエゾマツの精油は1万倍に希釈しても殺傷効果があります。海洋生物に比べて陸上生物の殺傷能力の高さには驚いています。紫外線に耐えることで陸上生物は強くなっているのでしょうね。

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がんの克服に確かな足跡を

―今回、ナノテクノロジープラットフォームを利用していかがでしたか。

千歳科学技術大学の質量分析計と北海道大学のNMRを使用して、精油の構造決定を行いました。私は物質を抽出することはできますが、構造については素人ですので大変助かりました。これまで人任せにしていた構造決定についても学ぶ機会があり、知識の幅が広がりました。構造を知ることは大切なことです。化学合成品を作るには機能を明らかにしなければなりません。特に医薬品は化学構造を簡素にしなければならないので、医薬品を目指すなら構造解析は欠かせないのです。アカエゾマツの研究は医薬品の開発を目指していきたいですね。

―今後の展望を聞かせてください。

がんの予防という観点から、長年、フコイダンを研究してきました。日本人の2人に1人はがんになる時代です。これだけ多くの研究者が知恵を絞ってもいまだに克服できないがんはなかなか手強いものです。予防という観点では食品の中に効果があるものも見つかっています。副作用のない食品で予防していくとともに、末期のがんの方の痛みを少しでも和らげられるような緩和ケアにつながる物質の発見にも力を入れていきたいですね。

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この研究に関するお問い合わせ:千歳科学技術大学

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