物質・材料研究機構

2012年度 成果事例

グラフェンの電子デバイス応用に向けた基礎伝導特性の解明と制御
筑波大学 数理物質系物理学域
神田 晶申

【研究目的】
ラマン分光法は、グラフェンをはじめとするナノカーボン材料の構造に関する有力な情報を与える。本研究では、以下の研究において、レーザーラマン顕微鏡を用いたグラフェンの構造評価を行った。① 単層グラフェンへの格子歪みの導入、②電子線照射による単層グラフェンへの欠陥誘起、③CVD成長したグラフェンの構造解析。
レーザーラマン顕微鏡によって、SiO2/Si基板上に形成したグラフェンのラマンスペクトルを測定し、ラマンDバンド、Gバンド、2Dバンドの位置、大きさからグラフェンの歪み量、欠陥の多さ、層数を評価した。

【成  果】
① 単層グラフェンへの格子歪みの導入
グラフェンは、格子歪みによってゲージ場が生成するという特殊な性質を持つ。これをうまく利用すると伝導ギャップを生成することも可能である。我々は、グラフェンと基板の間にレジストでできたナノ構造を挿入することにより、グラフェンに任意のパターンの局所歪みを導入することに成功した。顕微ラマン分光における2Dバンドのレッドシフトから歪みの空間分布を推定した。この方法を用いて、伝導ギャップが生成すると理論予測されている局所1次元歪みをグラフェンに導入し(図1)、伝導測定を行った。その結果、伝導ギャップの生成を示唆するデータが得られたが、電気伝導率はゼロにはならなかった。その原因として、平均自由行程内における歪みの変化量が小さいことが考えられる。すなわち、伝導ギャップの生成には、平均自由行程を伸ばすか歪みの空間変化量を大きくする必要がある。

② 電子線照射による単層グラフェンへの欠陥誘起
グラフェンの平均自由行程が短くなる原因の一つとして、デバイス作製時の電子線照射が挙げられる。このことを実証するために、ラマンDバンドと移動度の照射電子線量依存性を調べた。その結果、通常のデバイス作製に用いる電子線量で欠陥が大量に生成し、移動度が低下することが明らかになった。

③ CVD成長したグラフェンの構造解析
グラフェンを合成する有力な方法の一つに、金属触媒を用いた化学気相成長法(CVD)がある。従来のCVD成長法では、グラフェンは触媒金属上にできるので、デバイスに使用する際には、触媒を除去し、絶縁体基板にグラフェンを転写するという複雑なプロセスを経る必要があった。これを簡略化する方法として、絶縁体基板上にグラフェンを直接CVD成長する方法が近年提案され、注目を集めている。我々は、触媒金属の種類や成長条件を調整し、ラマンDバンド強度が大幅に減少し、欠陥の生成が抑制されたグラフェンの合成条件を見出すことに成功した。

図1:レジストナノ構造を用いた、グラフェンへの格子歪みの導入。
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