名古屋工業大学

2012年度 成果事例

スピネル型酸化物強磁性薄膜に対するイオン注入の影響
a筑波大学,b名古屋工業大学
柳原英人a,喜多英治a,新関智彦a,壬生攻b

【研究目的】
スピネル型酸化物強磁性体の記録媒体やデバイスへの応用のため不可避である微細構造作製技術の確立を目標に,イオン注入によるスピネル型酸化物薄膜の磁化制御を試みた。本研究では,代表的なスピネル型フェライト磁性材料であるマグネタイトおよび Co フェライトについて窒素イオンを照射して磁気特性の変化を調べた。イオン注入したフェライト薄膜の結晶性および磁性に関する局所的な情報を得るため,メスバウアー分光測定を実施した。

【成  果】
MgO(001) 基板上にスパッタリング法により成膜されたエピタキシャル Fe3O4 (001) 薄膜にさらに炭素保護膜を積層したものをイオン注入用試料とした。これらに窒素イオンを 2 ~ 12×1016 ions/cm2 注入し,イオン注入量に対する磁性の変化を磁化測定で評価し,さらに内部転換電子メスバウアー分光(CEMS)法を用いて局所的な結晶性および磁性を調べた。
イオン注入前後の Fe3O4(001) 薄膜の磁化測定の結果から,室温での飽和磁化は試料イオン注入量の増加とともに減少し,膜厚 10 nm 程度の比較的薄い薄膜に対しては 6×1016 ions/cm2 程度の注入で磁化が消滅することが明らかになった。一方,イオン注入後の試料において磁化の温度変化はほとんど見られず,室温で観測された磁化の消失は,交換結合の減少に伴うキュリー点の低下ではなく,むしろ磁気モーメントの減少に伴うものであることが示唆された。やや厚めの試料に対して室温において CEMS 測定を行った結果,注入前の試料の典型的な Fe3O4 のスペクトルが,窒素イオン注入量の増加とともに非磁性的なスペクトルに変化することが明らかになった(図1)。メスバウアー分光測定により,磁化測定による平均の磁化情報とコンシステントかつ局所的な情報が得られたことの意義は大きく,今後,非磁性化の機構解明とイオン注入を用いた物質合成・制御の指針構築につながるものと期待される。

図 1. イオン注入前後の Fe3O4 薄膜のメスバウアースペクトル。(a) イオン注入前の Fe3O4(50 nm), (b) 窒素イオン (12 kV) 6×1016 ions/cm2 注入後の Fe3O4(20 nm), (c) 窒素イオン (12 kV) 12×1016 ions/cm2 注入後の Fe3O4(20 nm).イオン注入前の磁気分裂した成分が,イオン注入後に中心付近の非磁性成分に変化していく様子が明瞭に示されている。
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