分子科学研究所

2014年度 成果事例

ニッケル触媒による炭素―フッ素結合の切断過程に関する理論研究
大阪大学大学院工学研究科
岩﨑孝紀

【目  的】
炭素―フッ素結合は有機分子を構成する単結合の中で最も高い結合エネルギーを有している。そのため、一般的な有機合成反応には不活性である。一方、我々は遷移金属錯体上に負電荷を有する化学種を触媒として利用することにより、温和な条件下炭素―フッ素結合を切断し、新たに炭素―炭素結合を形成できることを見出している(式1)。本研究では、アニオン性錯体の特異な反応性を明らかにすることを目的とし、量子化学計算と実験との両面から検討を行った。

MS_2_Fig1

MS_2_Fig2

【成  果】
ニッケル触媒によるフッ化アルキル、アリールグリニャール試薬、1,3-ブタジエンとのブタジエンの二量化を伴ったアルキルアリール化反応の推定反応機構をもとに量子化学計算を行った。
その結果、炭素―フッ素結合の切断を伴った結合形成段階(B→C)が最も反応の活性化障壁が高く、本過程が律速段階であることが示唆され、その活性化障壁は98.9 kJ/molと見積もられた。これは実験から求めた反応の律速段階および活性化パラメーターと良い一致を示した。
遷移状態モデルから、アニオン性ニッケル中心と対カチオンであるマグネシウムカチオンとの恊働作用が、炭素―フッ素結合の切断に重要な役割を果たしていることを明らかにした。すなわち、マグネシウムカチオンがフッ素原子に配位し、炭素―フッ素結合を活性化すると同時に、アニオン性ニッケル上の炭素中心が求核的に作用することにより結合の切断と生成が一挙に進行する。

本成果は、マグネシムとニッケルとの恊働触媒作用の可能性を示すものである。すなわち、適切な触媒設計により二つの反応基質の両方を活性化することにより、炭素―フッ素の様な強固な結合であっても容易に切断可能であることを示すものであり、触媒設計の新たな指針を与えるものである。

MS_2_Fig3
推定反応機構と遷移状態モデル

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