名古屋工業大学

2012年度 成果事例

ニトリル水和触媒を目指したコバルト錯体の合成
a名古屋工業大学, b高知大学
新村美香子a, 松本健司b, 小澤智宏a, 増田秀樹a

【研究目的】
アクリル高分子化合物は、紙力増強剤や凝集剤として多くの分野で利用されているか製品であるが、その原料となるアクリルアミド はアクリロニトリルの水和により合成されている。工業的には現在酵素ニトリルヒドラターゼが触媒し、アクリロニトリルから高選択的かつ高効率的に直接合成されているが、本酵素が天然由来であるためにその反応条件が限られている。これらの反応機構から考えられる酵素活性中心の本質を金属触媒の設計に反映させることで、これに変わる安定な触媒の開発に繋がると考えた。本研究では、酵素ニトリルヒドラターゼが持つ安価な金属イオンであるコバルトを用いた金属錯体の設計、ならびに合成を行った。

【成  果】
本研究で合成された配位子は、酵素ニトリルヒドラターゼが金属配位平面に2つのアミド窒素と2つの酸化された硫黄原子が存在することに着目し設計された。とくに硫黄原子に結合した酸素はとりわけ化学的に不安定なスルフェン基を与えているため、直接配位子設計に取り入れることは合成化学的に非常に困難である。そこで酸素の電子吸引性が、中心金属への電子対供与能力の大幅軽減につながっていると予想し、負電荷を有するチオールをメチル化して生成する中性チオエーテルを導入することにした。今回はこの配位子とコバルト塩として塩化コバルトあるいは過塩素酸コバルト用いて金属錯体を合成したところ、ともに単結晶が得られたのでそのX線構想解析を行った。構造解析では図1および図2に示す通り、コバルト(II)イオンに対し配位子が平面配位した構造であることがわかった。とりわけ過塩素酸コバルトを用いたもの(図2)は、再結晶溶媒に用いたアセトニトリル分子が配位していた。これはニトリルヒドラターゼの活性状態でもニトリル分子が配位する可能性を示唆する結果であり、非常に重要な知見が得られた。

図1.塩化コバルトを用いて得られたコバルト(II)錯体の結晶構造
図2.過塩素酸コバルトを用いて得られたコバルト(II)錯体の結晶構造
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