物質・材料研究機構

2014年度 成果事例

ピケットフェンスポリチオフェンとそのジブロックコポリマー
筑波大学大学院
Chengjun PAN

【研究目的】
共役系高分子は、集合することによって機能を発現する。すなわち、高分子間の電子的な相互作用が、導電性や発光性といった電子的な機能を決定づけている。したがって、高分子間の相互作用を緻密に制御することによって、新しい物性・機能を発現できる可能性があり1,2、これを目的として、われわれは特異構造を有した共役系高分子を合成した3

【成   果】
本研究では、有機エレクトロニクスの分野においてもっとも汎用的に用いられるポリチオフェン(P3HT:図1)の高分子間相互作用を制御することを試みた。P3HTの主鎖をそのままに、立体的にかさ高い側鎖で覆うことによって高分子間の相互作用が阻害されたピケットフェンスポリチオフェン(P3FT:図1)を設計・合成した。
条件を検討することで、連鎖重合によってP3FTを合成することに成功した。また、既報にしたがって合成したP3HTをマクロイニシエータとして用いることによってP3HTとP3FTからなるブロックコポリマー(P3HT-b-P3FT)の合成に成功した。
種々のスペクトル測定から、P3FTのポリチオフェン主鎖間にはまったく電子的な相互作用が働いていないことが明らかとなった。また、P3HTと比較して、P3FTの中で生じた電荷キャリアは不安定化されていることが分かった。
P3HT-b-P3FTのうちP3HTのブロックは分子間相互作用によって自己集合する。これを利用することによって、P3HT-b-P3FTのミクロ相分離構造を発現することができた。この相分離構造はすべてがポリチオフェンからなるが、一方では高分子間相互作用が働いており、一方ではまったく働いていない。このように高分子間の相互作用を精密に制御することによって、まったく新しい機能性高分子材料を創製できると期待される。

NM_3_Fig1
図1 P3HT、P3FT、およびP3HT-b-P3FTの構造。触媒移動型連鎖縮合重合で合成した。
NM_3_Fig2
図2 P3HT-b-P3FTが形成したミクロ相分離構造。明るい部分がP3HT、暗い部分がP3FTのドメインに対応する(700mm × 700mm)。

参考文献
1) K. Sugiyasu et al. J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 14754.
2) C. Pan et al. Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 10775.
3) C. Pan et al. Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, 8870.

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