分子科学研究所
2012年度 成果事例
単分子型光誘起伝導性物質の時間分解ESRによる光伝導機構の解明
【研究目的】
近年,有機デバイスや太陽電池の材料として,蛍光性分子と伝導性分子とを組み合わせた単分子型光誘起伝導性分子(図1)が開発され注目を浴びている.これらの系で著しい光伝導性が見いだされているが,その光伝導機構や緩和過程については明らかではない.本研究では,時間分解ESR測定により光誘起励起状態の緩和過程について微視的な観点から考察を行い,物質設計にフィードバックすることを目的とした.
【成 果】
粉末試料に対し時間分解ESR測定を低温で行った.測定はBruker-E680に改造を加え光励起に同期して固体試料のような高速電子緩和を時々刻々と観測出来るようにしている(図2).孤立分子系に対する時間分解ESRスペクトルを示す(図3).横軸,縦軸はそれぞれ,磁場,及びレーザー照射後の時間である.右図は0.5μs時のスペクトルで,正方向が吸収,負方向が放出である.青は励起3重項を仮定したシミュレーションで,良く一致していることが分かる.一方,粉末試料では図4に示すように,孤立分子系とは全く異なる全放出型の幅が狭いスペクトルが得られた。全放出型は,発光効率が高い励起状態が三重項状態を経て緩和していることを意味している.また幅が極めて狭いことは,スピン間が十分に離れた電荷分離状態が実現できていることが示唆される.このように,単分子型光誘起伝導性分子が光機能性材料として有望であること,時間分解ESR測定が評価の観点から非常に強力な実験手法であることを明らかにした.
(図1)単分子型光誘起伝導性分子の一例 TTF(伝導性分子)-PPD(携行性分子)
(図2)光誘起時間分解ESR Bruker-E680に改造を加えている
(図3)孤立分子系の光誘起時間分解ESRスペクトル 左がスペクトルの時間発展,右図が0.5μsでのスライス
(図4)微結晶の光誘起時間分解ESRスペクトル 左がスペクトルの時間発展,右図が50μsでのスライス