名古屋工業大学
2012年度 成果事例
【研究目的】
本研究では、加工用刃物の価値は「被加工物の安心・安全を生み出すためには、用いられる材料の能力を最大限に発揮すること」と捉え、形状を作り出す部材を構成する原子配列を考えながら加工できる刃具の開発を目指している。新規の刃具開発にあたっては、形状整形される素材固有の能力がエンドユーザーの手元で最大限に発揮できる状態に出来ること、及び、加工を力学的破壊の連続として捉えず、刃具と被加工素材同士の接触反応、即ち、接触点における化学反応結果が被加工物の表面性状を生み出していると考えることの2点を刃具開発設計思想とした。
【成 果】
従来の超硬と呼ばれる素材を用いた刃物が通過した下層には、被加工材料において原子配列の乱れが生じ、材料本来の性質とは異なる表面状態が無意識に作りこまれている。即ち、現状刃具を用いる限り、被加工材料表面には数十から数百ミクロンに及ぶ加工変質層が必ず残留する。新規開発刃具は2つの要素を持つ。一つは刃先が被加工材料を構成する原子配列と比肩出来る程度まで鋭利化することである。更に、工作機械のミクロな振動による予期せぬ機械的応力に耐える靭性を有することが第一の要件である。更に、加工変質層を生み出す要因の一つである、刃具材料と被加工材料との化学的反応性を極小化するために、加工時の刃具材料と被加工材料との電子のやり取りが少ないことが第二の要件である。その化学反応を極小とするために炭化珪素(SiC)を選択した。SiCはダイヤモンドに次ぐ高度を有し、更に、半導体加工技術を用いることで刃先の鋭利化が可能である。また、金属との電子的なやり取りが少なく、刃具材料として有望であると考えた。図1はSiCを刃物用に専用に結晶成長させ、化学機械的研磨法により、最表面まで単結晶面を表出させ、刃先丸み20nmを実現したものである。
具体的には、プラットフォーム利用施設であるMAT社製エアスピンドル40cm研磨定盤と曲面形成治具を活用した。単結晶に対する等方的な加工が初めて実現でき、FPDのバックライト反射導光板の表面散乱溝加工に用いた処、機械精度限界の仕上がりを得ることが出来た。本事業を通じて、更に新規の刃物創成に挑みたい。
図 1. 既存の超硬刃物にSiC単結晶を活着し上面と先端曲面をCMP仕上げした。