分子科学研究所

2014年度 成果事例

危険ドラッグの合成とGC-MSによる分析方法の検討
A 科学警察研究所, b分子科学研究所
a辻川健治, b井上三佳、東林修平

【目  的】
危険ドラッグの正確な薬物鑑定方法確立のため、ジアステレオマーを単離した3,4ジクロロメチルフェニデート(DCMP)の合成を行った。
DCMPは、国内外で広く乱用されている薬物である。この薬物は1組のジアステレオマー(エリスロ体、スレオ体)を有するが、いずれのジアステオレマーとも指定薬物として規制を受けている。薬物の鑑定には、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法が第一選択肢として用いられているが、GCによる分析時に熱分解を起こす可能性があり、ジアステレオマーの分離に関する知見も得られていなかった。
標準品は現時点では市販されておらず、また、当研究所での合成も困難であったため、分子科学研究所でDCMPの各ジアステレオマーを合成し、得られた標準品を用いて、GC-MSによる分析条件の検討を行った。

【成  果】
3,4-ジクロロメチルフェニデート(DMCP)は図1のスキームにより合成した。ジアステレオマー(エリスロ体とスレオ体)は混合物として得、両異性体をクロマトグラフラフィーで分離した。得られた化合物はNMRスペクトルの文献値との比較により構造を確認した。図2(a)
GC-MSによる分析時のDCMPの熱分解の防止に加え、ジアステレオマーの分離を目的として、DCMPをトリフルオロアセチル(TFA)誘導体(図2(b))に変換した後にGC-MSを行った。その結果、各ジアステレオマーは異なるクロマトグラム(図3)を与え、質量スペクトルからも熱分解も防止されたことが明らかとなった。

MS_5_Fig1
図1:DCMPの合成スキーム
MS_5_Fig2
図2:図 (a) 危険ドラッグ3,4-ジクロロメチルフェニデートDCMPのそれぞれのジアステレオマーの構造式、(b) それぞれのDCMPのトリフルオロ酢酸誘導体の構造式。
MS_5_Fig3
図3:DCMPのTFA誘導体のGC-MSスペクトル

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