奈良先端科学技術大学院大学

2012年度 成果事例

複合体ナノ粒子の光学応答
a関西学院大学理工学部化学, b奈良先端科学技術大学院大学
玉井 尚登a, 小林 洋一a, 野々口 斐之b

【研究目的】
金属と半導体を直接接合した複合ナノ粒子の励起過程は励起子-プラズモンカップリングなど基礎学理のみならず太陽光エネルギー変換や光線熱力学療法の高効率化の基礎的な知見が期待される。本研究ではNAISTナノテクノロジープラットフォーム事業を利用し、奈良先端大、野々口グループにて設計、合成、同定したAu/PbSハイブリッドナノ粒子を金属半導体コアシェル型ナノ粒子のモデルシステムとして、関学大、玉井グループにてその光励起初期過程をフェムト秒過渡吸収分光法により評価計測を行うことにより、金属半導体接合ナノ粒子の超高速緩和過程を明らかにした。

【成  果】
合成したAu/PbSナノ粒子はおおよそ球形であり、透過電子顕微鏡(TEM)像のコントラストから、直径5 nmのAuナノ粒子がおよそ2 nmのPbSシェルに内包されているコアシェル構造が明らかとなった。図1に示した過渡吸収スペクトルにおいては、 475 nmおよび553 nmの初期緩和ダイナミクスから数百フェムト秒にて電子-電子散乱とAu-PbS間の光誘起電子移動が収束することが示唆された。また700 nm付近のダイナミクスはAuのプラズモンバンドに由来し、3.7ピコ秒の特徴的な振動周期を与えた。この振動周期はおよそ11 nmの金ナノ粒子の力学的固有振動に相当する。すなわち、Au (5 nm)/PbS (2nm)コアシェルナノ粒子は粒子全体のサイズが膨張収縮を繰り返すBleathingモードを有することが明らかとなった。また、Au部位で効率的な光熱変換が起こり、電子-格子結合定数はAuナノ粒子とほとんど同じだった。以上により、Au/PbSナノ粒子の光エネルギー緩和過程が明らかとなった(図2)。以上の知見より、Au/カルコゲナイド系コアシェルナノ結晶において超高速高効率の光電荷分離が進行する事、さらにコヒーレントなプロセスを経由する高効率光熱変換が進行する事が明らかになり、光線熱力学療法システムとして抗がん剤などへの展開の可能性も示唆された。

【発表論文】 Y. Kobayashi, Y. Nonoguchi, L. Wang, T. Kawai, N. Tamai, J.Phys.Chem.Lett. 2012, 3, 1111.

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