千歳科学技術大学
2012年度 成果事例
【研究目的】
発光性メカノクロミズムは化合物に「こする」といった危機的刺激を与えた際、発光性が変化する性質のことである(図1)。本研究の狙いは、この発光性メカノクロミック現象をもつ化合物の一つであるアリール金イソシアニド錯体を研究し、この現象を記録材料やセンサ材料として実用化するための化合物の開発である。
図1:メカノクロミック金錯体の分子構造と白色光照射(左)、紫外線照射(右)
【成 果】
アリール基とイソシアニド部位のバリエーションを検討することで、様々な化合物の合成に成功し、新しい発光機能を持つ錯体を見いだした。金原子と共有結合で連結されたアリール基上に電子吸引基であるフッ素が結合したものである。この錯体について固体状態での発光性、発光性メカノクロミズム、エックス線構造解析による単結晶の構造について調べた。固体、単結晶での発光性は、その結晶構造の影響を強く受けていることがわかった。結晶構造では、どのアリール金イソシアニド錯体においても二つの錯体はhead-to-tail型で二量体を形成しており、この二量体を基本単位として結晶構造を持つ。メカノクロミズムを生じるためには、固体構造において、機械的刺激を受やすい構造が必要であることが明らかになった。
錯体によっては、再結晶に利用する溶媒によって結晶構造が異なるものもある。さらに、結晶化の速度によって準安定な構造を生じることもわかった。塗布法で錯体溶液を自然乾燥すると、溶媒の蒸発中に結晶核が形成され、この核から結晶が成長する。対流によって液体中に温度分布、濃度分布が発生し、そこで形成される結晶は様々な向き、体積、大きさを持つ(図2、左)。ディウェッティング装置により、溶液の蒸発を制御し、均一な状態での結晶化ができた。?蛍光顕微鏡観察によって、結晶の長さは数百μm、幅は数十μmであることがわかった。
?図2:金錯体溶液の自然蒸発後(左)、ディウェッティング装置を利用したサンプル(右)の蛍光顕微鏡写真。
H. Ito et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 10044?10045.