物質・材料研究機構

2012年度 成果事例

Eimeria tenella の鶏腸管内発育における遺伝子発現解析
動物衛生研究所
松林 誠

【研究目的】
Eimeria tenella は、鶏の盲腸組織に寄生し、増殖する原虫である。感染した鶏は、体重増加率の著しい低下や血便等を呈し、特に幼雛では死亡する。本原虫は、養鶏産業において極めて重要な病原体である。一方、鶏が食品でもあるという点において、食品衛生の観点から安全な防除策が見い出せていないのが現状である。

本原虫の病態発現は、盲腸組織内での第2代目の無性生殖期(3代の無性生殖と有性生殖の全4期がある)に大きく依存する。つまり、組織内に寄生した虫体は、数日のうちに爆発的に分化、増殖し、結果として鶏の盲腸組織を物理的に破壊する。本研究課題では、レーザーマイクロダイセクションシステム(LMD)を用いて第2代無性生殖期のみの高純度虫体RNA を単離・回収する。そして、本発育期での網羅的遺伝子発現解析を行い、分化・増殖に必須の遺伝子を同定し、この遺伝子をターゲットとする原虫特異的な新規防除法の開発を目指す。

【成  果】
E. tenella を鶏に経口投与し、約90時間後に盲腸を採取した。盲腸は、RNA の分解を防ぐため、即座に冷PBSで洗浄後、O.C.T. Compoundで包埋し、-20℃で凍結した。凍結したブロックは、ミクロトーム-20℃下で、10~20μm に薄切し、4℃でエタノール・酢酸液で固定後、0.05%トルイジンブルー液で染色、DEPC 処理水で洗浄し、即座に乾燥させた。

顕微鏡下で、第2代無性生殖期虫体を同定し、形態的に4段階 (図1参照:①虫体の直径15μm以下の発育初期未成熟虫体②15~30μmの発育中期未成熟虫体③30μm以上の発育後期未成熟虫体④成熟虫体) に識別した。LMDを用いて、それぞれの虫体を切り取り(図1黒枠)、total RNAを抽出した。RNAの品質確認を行ったところ、分解がないことが分かり、RT-PCRにより原虫遺伝子の増幅が確認できた(Matsubayashi et al., 2012)。E. tenella は同時期に複数の発育ステージが混在しており、これまで単一ステージの単離・解析は困難とされていた。LMDを用いることで、今後、単一ステージの解析が可能となった。

現在、精製したRNAからcDNAを合成し、DNAチップによる網羅的遺伝子発現解析を行っている。結果、虫体の細胞内分裂期(発育初期)において、DNA polymerase、actin等の細胞分裂関連遺伝子の発現が上昇していることが確認できた。このことから、虫体の分化に伴う遺伝子発現解析の有用性が示唆された。今後、Real-time PCRでの発現確認、またその他の遺伝子群のデータ集計およびデータマイニング解析により分化・増殖に必須の遺伝子を同定していく。

図1. ①発育初期未成熟虫体  ②15~30μmの発育中期未成熟虫体 ③30μm以上の発育後期未成熟虫体 ④成熟虫体

Reference:
Matsubayashi M. et al., Synchronous development of Eimeria tenella in chicken caeca and utility of laser microdissection for purification of single stage schizont RNA. Parasitology. 2012 Oct;139(12):1553-61.

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