利用報告書
課題番号 :S-19-MS-0043
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :『超原子ドーピング』概念に基づく高導電性n型有機半導体薄膜の作製と
太陽電池応用
Program Title (English) :Synthesis of Widely Fermi Level Tunable Organic Semiconducting Materials Based on “Supraatomic Doping” Concept
利用者名(日本語) :上野 裕 1,2), 北畠 大樹2)
Username (English) :Hiroshi UENO 1,2), Daiki KITABATAKE 2)
所属名(日本語) :1)東北大学学際科学フロンティア研究所, 2) 東北大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) The Frontier Research Institute for Interdisciplinary Sciences,
2) Graduate School of Science, Tohoku University
1.概要(Summary )
超原子ドーピング概念(図1)1)に基づき、リチウム内包PCBM(Li@PCBM)とPCBMから成るn型有機半導体薄膜を作製し、フェルミ準位(EF)測定および比抵抗測定を実施した。Li@PCBM添加によってPCBMのEFは0.12 eV上昇し、Li@PCBMのPCBMに対する電子供与的な振る舞いが確認された。比抵抗測定では絶縁性基板での製膜性に問題により、有効な結果を得ることができなかったため、別手法による測定を検討する。
図1. 無機半導体分野でのドーピング概念を有機分子で模する『超原子ドーピング』概念.有機半導体(PCBM)と同じ構造を有しながら、正負の電荷が一つずつ多い分子(Li@PCBM)をドーパントとして用いる.
2.実験(Experimental)
①フェルミ準位の測定:Li@PCBMを0、0.5、1、2、3、4、5wt%添加した30 mg/mLのPCBMクロロベンゼン溶液を調製した。スピンコート法(3000 rpm、30 s)によりITO基板上にLi@PCBM:PCBM複合薄膜を作製し、ケルビンプローブ法によりフェルミ準位を測定した。
②薄膜抵抗の測定:上記と同様の濃度条件でジクロロメタン溶液を調製した。石英基板上にスピンコート法(1000 rpm、60 s)により試料薄膜を作製し、ResiTest 8300を使用して比抵抗測定を実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
新規化合物Li@PCBMは、数種類の汎用有機溶媒に高い溶解性を示し、溶解度に乏しい無修飾のLi@C60およびC60を用いて実施した先行研究と比較して溶液プロセスによる製膜性が劇的に向上した。
PCBM薄膜のEFが−4.64 eVであったのに対し、複合薄膜のEFは−4.52 eVまで上昇しており、Li@PCBMがPCBMに対してn型ドーパントとして機能することが確認された。Li@PCBM添加量に応じたフェルミ準位の変化は見られず、1%程度の低ドーパント濃度領域でもEF制御に対する効果が飽和しているものと考えられる。
比抵抗値測定のために石英基板上へ薄膜作成を試みたが、ジクロロメタン中での凝集に起因すると考えられる製膜性の著しい低下により、十分な信頼性の結果を得ることができなかった。今後、conductive AFMによる局所的な物性測定など、別手法による評価を実施する。
4.その他・特記事項(Others)
1) Ueno, H. et al., Chem. Commun. 2019, 55, 11837.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1)上野 裕、田 日、林 昊升、THOTE Abhishek、中川 貴文、岡田 洋史、伊澤 誠一郎、平本 昌宏、大宮司 啓文、丸山 茂夫、松尾 豊、日本化学会第100回春季年会、3I3-10、令和2年3月24日
6.関連特許(Patent)
なし