利用報告書
課題番号 :S-15-MS-1033
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ねじれたポルフィリン金属錯体の磁気的相互作用の研究
Program Title (English) :Magnetic interaction of twisted porphyrin metal complexes
利用者名(日本語) :平岡 勇哉、横井 寛生、忍久保 洋
Username (English) :Y. Hiraoka, H. Yokoi, H. Shinokubo
所属名(日本語) :名古屋大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate school of engineering, Nagoya university
1.概要(Summary )
当研究室では、種々のポルフィリン骨格に対して嵩高い置換基等を導入することで非常に大きなねじれを有するポルフィリン分子を合成することに成功している。また、ポルフィリン分子の外周部にピリジンなどの配位性置換基を導入して配位サイトを形成させ外部に金属を導入すると、ポルフィリン分子が大きくねじれることも明らかにしている。磁性金属を導入したポルフィリンやポルフィリンラジカル種にねじれを導入した場合、その物性がどのように変化するのかは磁気的相互作用が軌道の重なりに強く影響を受けると考えられることから非常に興味がもたれる。
また、おわん状のπ電子系をもつバッキーボウル分子の骨格内部に窒素原子をもつアザバッキーボウルの合成に最近成功した。この化合物を酸によってプロトン化すると近赤外領域に光吸収をもつNMRで観測できない活性種が生成することを見いだした。
ねじれたポルフィリンの磁気的物性を明らかにするとともに、アザバッキーボウルから生成する活性種を同定するために極低温でのEPR測定やSQUID型磁気特性測定装置による温度依存磁化率測定を行った。このような極低温での測定には多量の液体ヘリウムを必要とするため、分子科学研究所のように大容量のヘリウム回収装置を有する研究機関が必要不可欠である。
2.実験(Experimental)
EPRスペクトルの測定は、電子スピン測定装置Bruker 社製E500を用いてX-bandで行った。測定はESR900クライオスタットを装着して4−300Kの範囲で測定を行った。溶媒にはジクロロメタンを使用し、極低温棟のサンプル準備室の真空ラインを利用して凍結脱気を3回行い溶存酸素を取り除いた。
磁気特性の測定は、SQUID型磁気特性測定装置QuantumDesign社製 MPMS 7およびMPMS XL7を使用して2−300Kの温度範囲で測定を行った。温度に対する磁気モーメントの変化を測定した。また、2Kにおいて7Tまでの磁場の変化に対する磁気モーメントの変化の測定も行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
ねじれたポルフィリン金属錯体については、銅を中心金属として導入したねじれたポルフィリン二量体のESRスペクトル測定をおこなった。その結果、極低温でポルフィリン銅錯体特有の超微細構造をともなったスペクトルが観測され、ねじれたポルフィリン分子に銅を導入できたことが明らかになった。また、外周部にも遷移金属を導入したポルフィリン分子について、極低温および室温でもシグナルが観測されπラジカルが生じていることが示唆された。SQUID型磁気特性測定装置による磁化率の温度依存性の測定の結果から、外周部に金属を導入したポルフィリン分子は分子間に反強磁性的相互作用が存在することが示唆された、また磁化曲線の測定の結果からそのスピン状態はS=1/2であることが示唆された。銅ポルフィリン二量体についてはサンプル量の関係からスピンの量が少なく測定は行えなかった。
一方、アザバッキーボウルから生成する活性種についてはEPR測定と電解UV測定の結果を併せて、アザバッキーボウルのラジカルカチオン種であると同定することができた。
4.その他・特記事項(Others)
分子科学研究所 極低温棟での機器利用に際して、いつでも測定装置が利用できるように整備していただいている、分子科学研究所 機器センター 藤原基靖様および伊木 志成子様に感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H. Yokoi, Y. Hiraoka, S. Hiroto, D. Sakamaki, S. Seki, H. Shinokubo, Nitrogen-embedded buckybowl and its assembly with C60, Nature Commun, 2015, 6, 8215.
(2) 平岡 勇哉・三宅 由寛・忍久保 洋,日本化学会第96回春季年会,平成28年3月.
(3) 平岡 勇哉・三宅 由寛・忍久保 洋, 第46回中部化学関係学協会支部連合秋季大会,平成27年11月.
(4) 横井 寛生・平岡 勇哉・廣戸 聡・酒巻 大輔・関 修平・忍久保 洋,日本化学会第96回春季年会,平成28年3月.
(5) 横井 寛生・平岡 勇哉・廣戸 聡・酒巻 大輔・関 修平・忍久保 洋, 第26回基礎有機化学討論会,平成27年9月.
6.関連特許(Patent)
なし







