利用報告書
課題番号 : S-16-MS-2005
利用形態 : 機器利用
利用課題名(日本語) :アイスコア試料中のエアロゾルのSTXM分析による大気酸性化の歴史の解明
Program Title (English) : History of the atmospheric acidification based on the STXM analysis of aerosols collected from ice core in Greenland
利用者名(日本語) : 宮本千尋1), 坂田昂平2), 大東琢治3), 稲垣裕一3), 高橋嘉夫1)
Username (English) : C. Miyamoto 1), K. Sakata2), T. Ohigashi3), Y. Inagaki3), Y. Takahashi1)
所属名(日本語) : 1) 東京大学大学院理学系研究科, 2) 広島大学大学院理学研究科, 3) UVSOR
Affiliation (English) : 1) Graduate School of Science, The University of Tokyo, 2) Graduate School of
Science, Hiroshima University, 3) UVSOR Synchrotron
1.概要(Summary)
大気中を浮遊する微小な粒子・液滴であるエアロゾルは、地球の表層環境に様々な影響を及ぼすが、その1つとして地球冷却効果が挙げられる。このうち、本研究で注目する間接的冷却効果は、吸湿性の高いエアロゾルが雲凝結核(cloud condensation nuclei:CCN)として作用し、形成された雲が太陽光を散乱することで引き起こされる。しかし、エアロゾルの吸湿性は粒子を構成する化学種により左右されるため、間接的冷却効果を評価する上で、エアロゾルの化学種を明確にすることは重要である。硫酸塩はエアロゾル中の主要な化学種の1つであり、主に吸湿性の高い硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)として存在するため、雲凝結核特性を持つと考えられている。一方、アジア域の鉱物粒子中のカルサイト(CaCO3)が大気輸送中において硫酸と反応し石膏(CaSO4・2H2O)を形成することが報告されている。これまでの研究から、CaCO3による中和反応は吸湿性の高い(NH4)2SO4の形成を抑制し、硫酸塩エアロゾルの雲凝結核特性を低下させる可能性があることが示されている。そこで本研究では、硫酸塩エアロゾルの化学種同定による間接的冷却効果の再評価を目的とし、グリーンランドで掘削された氷床コア中に捕捉された粒子についてSTXM分析を行い、カルシウムおよび硫酸塩化学種を解析することで、CaCO3と硫酸の反応が全球的に硫酸エアロゾルの化学種に影響を与える現象であるかや、この現象の過去50年間の変動の歴史について検討を行った。
2.実験(Experimental)
2015年にグリーンランド南東部(67°2′ N, 36°4′ W, 3170 m asl.)で掘削された氷床コア(SEコア)に捕捉されたエアロゾル粒子を分析に用いた。本研究では、1971年、1978年、1987年、1995年、2004年の各層について、氷床コアの氷を−20℃で昇華させることで粒子を分離した。UVSORのBL4Uに設置されているSTXMを用いて、この粒子の硫黄L端、カルシウムL端のXANES測定を行った。測定は常温・大気圧下で行った。放射光をフレネルゾーンプレートで微小スポットに集光し、透過したX線強度を試料スキャンして検出することにより元素イメージングを行なった。X線のエネルギーをスキャンしながら元素分布を取得するイメージスタック法により、各部位のXANESスペクトルも得た。
3.結果と考察(Results and Discussion)
氷床コアから分離した粒子中のカルシウム化学種解析の結果、近年ほどCaCO3がより多くの硫酸と反応していることが示唆された。このような傾向は、中国でのSO2排出量に類似している(Crippa et al., 2016)。さらに、グリーンランドに到達する鉱物粒子の主な起源はタクラマカン砂漠など中国の乾燥地域であり(Bory et al., 2003など)、この地域の風成堆積物はCaCO3含有量が高いこと(Shimizu and Honda, 2002)、などが知られている。これらのことから、グリーンランド氷床中に捕捉されている鉱物粒子中のカルシウム化学種は、中国乾燥地域で発生した後に、同じく中国で発生した硫酸と反応した結果を反映している可能性が示唆された。この結果は、CaCO3の中和反応による石膏の形成は東アジアに特異的な現象であることを示していると考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。







