利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1035
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :イミダゾリウム系イオン液体の分子科学的研究:分子間振動と粘度・ガラス転移温度の関係
Program Title (English) :Molecular Science Study on Imidazolium-Based Ionic Liquids: Relation between Intermolecular Vibration and Viscosity/Glass Transition Temperature
利用者名(日本語) :城田秀明, 柿沼翔平
Username (English) :Hideaki Shirota, Shohei Kakinuma
所属名(日本語) :千葉大学大学院融合科学研究科
Affiliation (English) :Department of Nanomaterial Science, Chiba University
1.概要(Summary)
イオン液体は1992年に空気中で安定なものが発明されて以来大変注目を浴びている。研究の歴史が浅く比較的新しい液体であるため,イオン液体に関する分子科学的知見が十分に得られているとは言い難い。イオン液体が示す特殊な性質は,複雑な分子間相互作用が大きく影響している。そのため,微視的な分子間相互作用が鋭敏に反映される分子間振動を明らかにすることは,イオン液体の本質を理解する上で非常に重要である。液体やガラスにおいて,その動的な不均一性に関する因子にフラジリティー因子があるが,イオン液体は容易にガラス転移を示す上に不均一構造(ミクロ相分離)を示すことが知られている。本研究課題では,イオン液体のフラジリティー因子と分子間振動の温度依存性の関係を明らかにすることを目指した。結果として,ガラス転移温度を示す10種類のイミダゾリウム系イオン液体のフラジリティー因子を決定することに成功した。一方で,分子間振動バンドの温度依存性との明確な関係を見出すことはできなかった。
2.実験(Experimental)
本研究課題を行うには,主に三つの異なる分光・機器測定実験が必要である。一つは分子間振動ダイナミクスの測定,二つ目は粘度の温度依存性の測定,そして三つ目がガラス転移温度の測定である。最初の二つの実験項目は千葉大学の利用者の研究室で行い,三つ目の実験項目について本プログラムに基づいて分子科学研究所の機器センター所有の熱分析装置(DSC2920)を利用し,12種類のイミダゾリウム系イオン液体のガラス転移温度の測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
熱分析装置でガラス転移温度を測定したところ,12サンプル中2サンプルはガラス転移を示さずに融解したが,10サンプルはガラス転移温度を決定できた。ガラス転移温度を示したものについては,カチオンアルキル鎖長やアニオン種について明確な相違は示さず,170-200 Kでガラス転移することが分かった。ここで得られたガラス転移温度と申請者の研究室で測定した粘度の温度依存性データから,10種類のイオン液体についてフラジリティー因子を決定することができた。これらのフラジリティー因子と分子間振動バンドの温度依存性を比較したところ,明確な関係を見出すことはできなかった。これは,分子間振動バンドのスペクトル強度においてイミダゾリウム環の影響が強すぎて,ガラス化や液体のフラジリティーへの関連が見えにくくなっている可能性が考えられる。今後,非芳香族性イオン液体について検討する予定である。
4.その他・特記事項(Others)
分子間ダイナミクスと粘度の実験に関する部分は,科研費(基盤研究(C), 15K05377)により支援された。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Shohei Kakinuma, Tateki Ishida, Hideaki Shirota, J. Phys. Chem. B, 121 (2017) 250-264.
(2) 柿沼翔平,城田秀明, 第6回CSJ化学フェスタ, 平成28年11月16日.
(3) Shohei Kakinuma, Hideaki Shirota, 2nd Joint Workshop on Chirality in Chiba University and Soft Molecule Activation, 平成28年12月20日.
6.関連特許(Patent)
なし。







