利用報告書
課題番号 :S-20-NI-0003
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :カルコパイライト半導体量子ドットの発光評価
Program Title (English) :Photoluminescence analysis of chalcopyrite quantum dots
利用者名(日本語) :葛谷俊博1), 平瀬明光2),横井 凛2),濱中 泰2)
Username (English) :T. Kuzuya1), A. Hirase2), R. Yokoi2), Y. Hamanaka2)
所属名(日本語) :1) 室蘭工業大学, 2) 名古屋工業大学
Affiliation (English) :1) Muroran Inst. Tech., 2) Nagoya Inst. Tech.
1.概要(Summary )
CuInS2とAgInS2の量子ドットを対象に、発光機構と、表面改質による発光特性改善の機構を調査した。CuInS2量子ドットについては、正確な解析がおこなわれていない孤立分散状態での発光の温度特性を詳細に測定して、新たな知見を得た。AgInS2量子ドットに関しては、トリオクチルホスフィン(以下、TOP)で表面を修飾するとスペクトル幅の狭いバンド端発光が現れる。本研究では、この変化の機構を解析した。
2.実験(Experimental)
粒径1.7 ~3.4 nmのCuInS2量子ドットと、6 nmのAgInS2量子ドットを、既報に従い合成した[1,2]。CuInS2量子ドットとポリメタクリル酸メチルの混合溶液をスピンコートして、CuInS2量子ドットを疎に分散させた透明ポリマー薄膜を作製した。5 K~室温の範囲で、発光スペクトルと発光寿命を測定した。AgInS2量子ドットは有機溶媒に分散させ、所定の分量のTOPを添加した。TOP添加後の量子ドットの発光スペクトルと発光寿命の経時変化を、7日間に渡って追跡した。
吸収スペクトルはUV/VIS/NIR分光光度計を使用して測定した。発光スペクトルと発光寿命は、スペクトル・PL寿命測定装置を使用して測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
CuInS2量子ドットの発光強度は、強い温度依存性を示し、低温で増強する熱消光の特徴を示した。熱消光の活性化エネルギーは、50~350 meVと見積もられた。報告されているギャップ内準位の深さと活性化エネルギーの値を考慮した結果、熱消光は、励起電子が表面の欠陥サイトにトラップされる非輻射プロセスによって生じると考えられた。50~350 meVの値は、表面欠陥サイトのバリアの高さを示している。粒径の異なる量子ドットのバリアの高さは異なるが、バリアの高さと粒径の間には相関はみられなかった。複数の種類の表面欠陥が粒径とは無関係に形成されると示唆される。一方、発光寿命の温度依存性から見積もった輻射再結合レートは粒径に依存し、大きい量子ドットの輻射再結合レートが高いことがわかった。
TOP添加後、AgInS2量子ドットの発光強度が急激に増強し2時間後に最大となった。その後、徐々に強度が下がった。同時に、短波長側にシャープなバンド端発光ピークが現れ、徐々に強度を増加していき、10時間後には元の発光ピークを逆転した。このような特徴的な経時変化は、量子ドットの表面に輻射再結合サイトと非輻射再結合サイトがどちらも存在し、TOPがリガンドとして結合して両サイトを不活性化することを示唆している。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献
[1] T. Kuzuya et al., J. Colloid Interface Sci. 388, 137 (2012).
[2] T. Ogawa et al., J. Mater. Chem. 20, 2226 (2010).
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) A. Hirase, Y. Hamanaka, and T. Kuzuya, “Ligand-induced luminescence transformation in AgInS2 nanoparticles: From defect emission to band-edge emission”, J. Phys. Chem. Lett. Vol.11(2020)p.p.3969-3974.
(2) 平瀬明光,濱中 泰,葛谷俊博,「リガンド添加に伴うAgInS2ナノ粒子のバンド端発光」,第81回応用物理学会秋季学術講演会,令和2年9月8日.
6.関連特許(Patent)
なし