利用報告書

キヌクリジンの完全重水素化
河本充司(北海道大学大学院理学研究院)

課題番号 :S-20-MS-0002
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :キヌクリジンの完全重水素化
Program Title (English) :Deuteration of quinuclidinium cation
利用者名(日本語) :河本 充司
Username (English) :A. Kawamoto
所属名(日本語) :1) 北海道大学大学院理学研究院
Affiliation (English) :1) Grauate school of Sicence, Hokkaido Univ.

1.概要(Summary )
近年、新しいタイプの強誘電体として球形の永久双極子をもつ分子キヌクリジウム(図1)を用いた物質が注目を持たれている(Harada et.al. Nature Chemistry 2016)。高温の常誘電相では、分子は高速回転をしているが、低温の秩序相では、分子の運動の自由度は失われ電気双極子の方向が揃うことによる秩序・無秩序型強誘電体と分類できるが、有機分子特有の柔らかさにより、歪みによっても強誘電特性を制御できる“柔粘性強誘電体”という特徴のある性質があり、今後の応用を含めて関連物質の探索が進んでいる。このような分子運動を調ねるために選択的重水素化を用いたNMRの研究のための研究を行っている。

2.実験(Experimental)
最初に窒素部位のみを重水素化した試料(図1)の合成をナノプラットフォームの椴山研究室にて行った。NMRにより置換率の検定を行った。そのうえで単結晶を溶媒蒸発法により作成し室温での格子定数を測定した。重水素効果の有無を調べるために分子科学研究所、機器センター所有のDSC8231    のを用いて2つの相転移温度を調べた。D-NMRの準備のために室温で確認した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
すでに本物質の開発者である北海道大学総合化学研究院・原田准教授より重水素化溶媒中でのプロトン交換で重水素化可能であることが示唆されていた。測定および物性評価をおこない必要な量を得るために分子科学研究所のナノプラットフォームを利用して試料の合成、評価を行った。  DMSO中での1H-NMRの信号の消失からほぼ重水素化されていることが確認された。X線測定用の結晶は、EtOD中の自然蒸発により再結晶を行った。空気中の水分のコンタミネーションを防ぐために再結晶は、真空デシケータ内で行った。同様の方法で作成したH体とともにX線測定を行い格子定数に有意な違いがなく論文値と一致することを確かめた。
 重水素化により相転移の挙動が変わっていないことを確認するため、非置換体と重水素体のDSC測定をここなった。重水素体においても低温相からの中間相、高温相への相転移が確認され転移温度も1℃の範囲内で一致し、またDSCのチャートも同じであった。(図2)  これにより測定にもちいる結晶のチェックが完了した。実際に室温で試行的に D-NMR の信号探しをおこなって信号を確認することができた。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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