利用報告書

キネシンと阻害剤の熱分析
横山英志1)
1) 東京理科大学 薬学部

課題番号 :S-16-MS-1057
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :キネシンと阻害剤の熱分析
Program Title (English) :Thermal analysis of kinesin and its inihibitors
利用者名(日本語) :横山英志1)
Username (English) :Hideshi Yokoyama1)
所属名(日本語) :1) 東京理科大学 薬学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Pharmaceutical Sciences, Tokyo University of Science

1.概要(Summary)
キネシンの一つであるEg5はATP駆動性モータータンパク質であり、Eg5の機能阻害により細胞分裂が停止し細胞死が誘導される。Eg5阻害剤は非分裂期の微小管には作用しないため、神経毒性の少ない細胞分裂阻害剤、すなわち抗がん剤の標的分子として注目されている。Eg5阻害剤でこれまで報告されているものと新たに創出した阻害剤の計3種について、等温滴定型カロリメーターITCによる熱分析を行うことで、Eg5–阻害剤結合における熱力学的パラメーター(エンタルピー、エントロピー)、結合比、結合定数を算出し、各阻害剤のEg5との結合様式の違いを熱力学的パラメーターから比較することを目的とした。
2015年度後期に申請した課題と同種のデータを再現性よく複数回得ることでさらに信頼できるデータセットを得ることを目的とした。

2.実験(Experimental)
大腸菌を用いて発現、精製したキネシンEg5のモータードメインの新しい試料をセルサンプルへセットし、Eg5阻害剤(compound 8, 21, 138の3種)をそれぞれシリンジサンプルにセットして、等温滴定型カロリメーターMicroCal iTC200による熱分析を行った。コントロールとして、セルサンプルへEg5を含まない緩衝液のみの溶液をセットし、Eg5阻害剤3種のいずれかをシリンジサンプルにセットして、同様に測定を行った。サンプルデータからコントロールデータを引き、測定データとした。
前年度の測定では結合定数の最も高いcompound 138のパラメーターに測定ごとのばらつきが認められた。そこで3 Lずつ13回滴下から1.5 Lずつ25回滴下と少量ずつ加える方法に変更し測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
測定条件を変更することで結合定数の最も高い阻害剤(compound 138)でもばらつきの少ないデータが得られた。Eg5阻害剤3種のEg5に対する熱分析の結果、阻害剤とEg5とはほぼ1:1の結合様式を示すと考えられる。compound 8, 21, 138では、Eg5のATPase活性によるIC50値がそれぞれ約10倍ずつ異なることがすでに明らかになっている。今回の熱分析の結果、compound 8, 21, 138のEg5に対する結合定数はそれぞれほぼ一桁ずつ異なることが確認された。さらに各種パラメーターは3種の阻害剤でいずれもΔH << 0、−TΔS > 0、ΔG < 0となった。そのため3種の阻害剤はEg5に対しエンタルピー駆動の相互作用様式を示すことが明らかになった。
3種の阻害剤を比較すると、compound 8に対しcompound 21ではエンタルピー的に大きく有利になった。一方、compound 21に対しcompound 138ではエンタルピー的には同等だがエントロピー的に有利になった。compound 138ではcompound 21に比べ置換基どうしをリンカーでつないだ化合物で阻害剤本体のエントロピーが低く結合のエントロピーが有利になると考えられる。このように阻害剤のEg5に対する結合特性を解明した。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は、静岡県立大学 創薬探索センター 浅井章良 教授、澤田潤一 准教授、小郷尚久 講師との共同研究で行われたものです。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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