利用報告書

キネシンEg5と阻害剤の熱分析
横山英志1)
1) 静岡県立大学薬学部

課題番号 :S-15-MS-1063
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :キネシンEg5と阻害剤の熱分析
Program Title (English) :Thermal analysis of kinesin Eg5 and its inihibitors
利用者名(日本語) :横山英志1)
Username (English) :Hideshi Yokoyama1)
所属名(日本語) :1) 静岡県立大学薬学部
Affiliation (English) :1) School of Pharmaceutical Sciences、University of Shizuoka

1.概要(Summary )
キネシンEg5はATP駆動性モータータンパク質であり、Eg5の機能阻害により細胞分裂が停止し細胞死が誘導される。Eg5阻害剤は非分裂期の微小管には作用しないため、神経毒性の少ない細胞分裂阻害剤、すなわち抗がん剤の標的分子として注目されている。Eg5阻害剤の大部分がATP不競合阻害様式をとり、ATPやADPが結合したEg5に結合してADPを放出することを阻害する。今回このタイプの阻害剤でこれまで報告されているものと新たに創出した阻害剤の計3種について、等温滴定型カロリメーターITCによる熱分析を行った。そしてEg5–阻害剤結合における熱力学的パラメーター(エンタルピー、エントロピー)、結合比、結合定数を算出し、各阻害剤のEg5との結合様式の違いを熱力学的パラメーターから比較することを目的とした。

2.実験(Experimental)
大腸菌を用いて発現、精製したキネシンEg5のモータードメインをセルサンプルへセットし、Eg5阻害剤(compound 8, 21, 138の3種のいずれか)をシリンジサンプルにセットして、等温滴定型カロリメーターMicroCal iTC200による熱分析を行った。またコントロールとして、セルサンプルへEg5を含まない緩衝液のみの溶液をセットし、Eg5阻害剤(compound 8, 21, 138の3種のいずれか)をシリンジサンプルにセットして、同様に測定を行った。サンプルデータからコントロールデータを引くことで、阻害剤の希釈熱の影響を除き、測定データとした。

3.結果と考察(Results and Discussion)
Eg5阻害剤(compound 8, 21, 138の3種)のEg5に対する熱分析の結果、阻害剤とEg5との結合比は1に近く、1:1の結合様式を示すことが予想された。compound 8, 21, 138では、Eg5のATPase活性によるIC50値がそれぞれ約10倍ずつ異なることがすでに明らかになっている。今回の熱分析の結果、compound 8, 21, 138のEg5に対する結合定数はそれぞれほぼ一桁ずつ異なることが認められた。さらにΔG = ΔH − TΔS の関係式により、阻害剤がEg5に結合する際のエンタルピー変化、エントロピー変化、ギブズエネルギー変化の値を算出したところ、3種の阻害剤でいずれもΔH << 0、−TΔS > 0、ΔG < 0となった。そのため3種の阻害剤はEg5に対しエンタルピー駆動の相互作用様式を示すことが明らかになった。
今回の熱分析の結果では、結合定数の最も高い阻害剤について、得られる熱力学的パラメーターに測定ごとのばらつきが認められた。3種の阻害剤の構造特性から、結合におけるエントロピー項に違いがあると予想される。そこで今後、測定条件を再検討することにより、各阻害剤の熱力学的パラメーター(エンタルピー、エントロピー)を算出し、3種の阻害剤のEg5に対する結合特性を明らかにする。

4.その他・特記事項(Others)
参考文献
(1) Yokoyama, H. et al., ACS Chem. Biol. 10, 1128-1136 (2015)
本研究は、静岡県立大学 創薬探索センター 浅井章良 教授、澤田潤一 准教授、小郷尚久 講師との共同研究で行われたものです。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.