利用報告書
課題番号 :S-18-MS-1053
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :グラフェンのナノ窓における窒素と酸素の補足状態解析
Program Title (English) :Trapped Nitrogen and Oxygen molecules in Graphene Nano-windows
利用者名(日本語) :二村竜祐1), フェルナンド ヴァイエフォス-ブルゴス1), 金子克美1)
Username (English) :R. Futamura1), Fernando Vallejos-Burgos1), K. Kaneko1)
所属名(日本語) :1) 信州大学 環境・エネルギー材料科学研究所
Affiliation (English) :1) Interdisciplinary Cluster for Cutting Edge Research Center for Energy and Environmental Science, Shinshu University
1.概要(Summary )
グラフェンに0.4nm程度のナノ窓をつくり、アルゴン、窒素、酸素を低温で透過させると、特に窒素はナノ窓に一時トラップされる。このナノ窓にトラップされている分子の振動状態の解析を通じて、ナノ窓と分子との相互作用を明らかにする。今回は、予備実験としてカーボンナノホーンとガス分子(窒素及び酸素)を封入したガラスキャピラリについて分子科学研究所の温度可変顕微ラマン測定装置により検討を行った。
2.実験(Experimental)
酸化処理を行っていないカーボンナノホーン(SWCNH)をガラスキャピラリに入れ、その後真空加熱処理(393 K, < 0.1Pa, 2h)を行い、窒素及び酸素を1atm導入しキャピラリを封じ切った。キャピラリの直径及び長さは0.7mm及び1.5 cmである。これらのキャピラリを分子研に持ち込み、温度可変クライオスタット付き顕微ラマン分光装置(RENISHAW in Via Reflex)にセットし、50 Kにてカーボンナノホーンに吸着したガス分子の振動運動についてラマン散乱測定から検討を行った。また比較のために1 atmの窒素ガス及び酸素ガスのみを導入したキャピラリに対しても同様の測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
室温 で1 atmの窒素及び酸素ガスのみを導入したキャピラリについてのラマン散乱測定結果をそれぞれ図1及び図2に示した(赤)。これらの図には比較のために真空状態で封じ切ったキャピラリのラマン散乱スペクトルも示してある(青)。2330 cm-1そして1560 cm-1に見られるシャープなピークはそれぞれ窒素及び酸素の伸縮振動に由来するピークである。これらのことは本測定によりガス分子である窒素及び酸素分子の振動運動を捉えられたことを意味している。
これらをもとに、SWCNHに吸着した窒素分子についても同様の測定を行った。図3に50 Kにおける 窒素とSWCNHを導入したキャピラリのラマン散乱スペクトルを示す(赤)。青は窒素ガスを封入したキャピラリのものである。2620 cm-1にあるブロードなピークはSWCNHの2Dバンドであり、測定領域においてSWCNHが存在していることを示している。窒素とSWCNHを導入したキャピラリについても気体の窒素分子でみられた2330 cm-1のピークが、非常に小さいが、見られた。気体のガス量とSWCNHの重量から見積もると50 Kにおいてほぼすべての窒素分子はSWCNH外表面に吸着していると考えられるため、2330 cm-1のピークはSWCNTHに吸着した窒素分子の伸縮振動に由来すると考えられる。2330 cm-1以外にも2450 cm-1、2810 cm-1にシャープなピークが見られたが、これらが何に由来するものなのかは現在検討段階である。
本測定により、SWCNHに吸着した窒素分子の振動状態についてラマン散乱測定から検討することが可能であることが明らかになった。今後の検討課題として、酸化処理を行い、ナノ窓を付与したSWCNHに対して窒素及び酸素を吸着させ、ナノ窓にトラップされた窒素及び酸素についての振動状態について検討を行うことを予定している。より詳細な理解にはSWCNHに対するガス分子の吸着量を系統的に変えた測定が不可欠である。今後の検討に先立って、キャピラリの長さを変えることで、窒素の吸着量をコントロールした測定を行えるように、本装置に取り付けられる長さの長いセルを作成した(図4)。これを用いることで、ナノ窓にトラップされた窒素分子の振動状態がより詳細に検討できるようになると期待できる。
図1 真空(青)及び窒素ガス(赤)を封入したキャピラリのラマン散乱スペクトル
図2真空(青)及び酸素ガス(赤)を封入したキャピラリのラマン散乱スペクトル
図3 50 Kにおける窒素ガスとSWCNH(赤)を封入したキャピラリのラマン散乱スペクトル
図4 新しく作成した温度可変顕微ラマン測定装置用のセル。長さの長いキャピラリを取り付けられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし