利用報告書

グラフェンの積層構造に依存した電子状態の研究
八木 隆多
広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻

課題番号 :S-16-NM-0087
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :グラフェンの積層構造に依存した電子状態の研究
Program Title (English) :Study of stacking-dependent electronic structure of multilayer graphene
利用者名(日本語) :八木 隆多
Username (English) :R. Yagi
所属名(日本語) :広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻
Affiliation (English) :Graduate School of Advanced Sciences of Matter, Hiroshima University

1.概要(Summary)
グラフェンの電子構造は、層数に依存して大きく変化することが予測されている。また、結晶構造の特殊性から、ABAスタックとABCスタックの二種類が存在しているため、3層以上では、同じ層数であっても、結晶構造の異なるものが多数存在することが予測されており、単純なグラフェンの積み重ねで多彩な物性が現れることが期待できる。しかし、こうした電子構造のスタッキング依存性は、あまりよくわかっていない。本研究の目的は、3層以上のグラフェンに関してラマン分光を詳細に行い、異なるスタッキングを、ラマンスペクトルの形の分類によって弁別する方法を確立することである。高速ラマン顕微鏡を用いたラマンマッピング測定によって、これらを同定し、磁気抵抗測定の結果を裏付ける証拠とする。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
 高速レーザーラマン顕微鏡
【実験方法】
・ 力学的劈開をして作製した多層グラフェンのラマンマッピング測定を行い、ラマンシフト=2700cm-1 付近に現れるG’バンドピークと =1500 cm-1付近に現れるGバンドピークを観測することによってスタッキングのドメイン観察を行った。
3.結果と考察 (Results and Discussion)
層数とスタッキングによって、Gバンドまたは、G’バンドピークの形が微妙に変化するので、これらのピーク付近のシグナル強度の二次元マッピングを用いると効率的に検出することができた。これまで知られてきたABスタッキングに関しては、きわめて再現性がよく、ラマンシフトとシグナル強度に関してオフセットを調節することで、1-8層に関して層数を明確に確定できることがわかった。
4層以上のグラフェンに関して、これまで報告のないABCとABAスタッキングの両方を含むスタッキングと思われるシグナルを多数観測した。4層グラフェンに関しては、ABAB, ABCA, ABACの3つが存在するが、ABACは観測されていなかったものであって、ABAスタッキングとABCスタッキングの両方を含むものである。また、5層6層グラフェンに関しても、これまで観測されていない異なるスタッキングと思われるシグナルを多数発見した。統計的には、これまで研究報告されているように、AB積層グラフェンが圧倒的に多く、天然グラファイトや、Kish グラファイトから作られる多層グラフェンでは、AB積層がほとんどであり、ABC、ABAの両方を含むものの出現確率は低かった。スポットの顕微ラマン分光でこうした異なるスタッキングを発見するのは、ほぼ不可能に近いと言わざるを得ず、高速ラマン顕微鏡を用いた測定がきわめて有効であった。ここで発見したそれぞれのラマンスペクトルに対応するグラフェンを、原子層転写技術をもちいてh-BNの間に挟み込んだ素子を作製し、これを低温・高磁場下で電気抵抗を測定することで電子バンド構造とスタッキングの関係を確定できる。
4.その他・特記事項(Others)
 高速ラマン顕微鏡の使用トレーニングを受けたほか、様々なトラブルに親切に対応していただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 戎岡亮哉、他「高易動度多層グラフェンにおける垂直電場効果」日本物理学会, 2017年 3/17-20
(2)平原大暉、他「磁気輸送特性測定による4層グラフェンの電子構造」日本物理学会, 2017年 3/17-20
6.関連特許(Patent)
なし

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