利用報告書
課題番号 :S-18-NM-0047
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :グラフェン等層状2次元物質の電子状態と電気伝導特性に関する研究
Program Title (English) :Study on electronic states and electron transport in two-dimensional materials
利用者名(日本語) :神田晶申, 友利ひかり
Username (English) :A. Kanda, H. Tomori
所属名(日本語) :筑波大学数理物質系
Affiliation (English) :Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
1.概要(Summary )
移動度が極めて大きく原子1個分の究極の薄さをもつグラフェンは次世代の高速・低消費電力電子デバイスの材料として注目されているが、グラフェンをトランジスタに応用するためにはバンドギャップが必要である。本研究では、グラフェンにひずみを導入することで、実用化に十分である0.4 eV以上のバンドギャップを形成することを目標としている。今年度の研究では、昨年度に引き続き、自己組織化膜を用いたボトムアップ的技法を用いて、基板上に微細な凹凸構造を形成し、その上にグラフェンを載せることでグラフェンに準周期的なひずみを導入した。ひずみをラマン分光によって確認すると共に、電気伝導特性を評価した。
2.実験(Experimental)
【利用した装置】
レーザーラマン顕微鏡、NIMS竹村博士の支援を受けた。
【実験方法】
PS-r-PMMA(ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルのランダム共重合体)をスピンコートしたSiO2/Si基板上にPS-b-PMMA(ブロック共重合体)を塗布しアニールを行うことで、PS相とPMMA相の相分離を引き起こしラメラ構造を形成した。その後、反応性イオンエッチングにより、主にPMMA相を除去し、凹凸構造を形成した。その上に、単層グラフェンを転写することによって、グラフェンにひずみを導入した。NIMS分子・物質合成プラットフォームのレーザーラマン顕微鏡を用いて、ひずみを導入したグラフェンのラマンスペクトルのマッピングを行い、ひずみ量を評価した。さらに、低温プローバを用いて、室温と4.2 Kにおける電気伝導特性を比較した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
走査電子顕微鏡による観察から、方向が様々に変化する周期約35 nmのラメラ構造が形成されていることがわかった。また、この上のグラフェンのラマンスペクトルでは、Gピーク、2Dピークのダウンシフトが観測され、両者から、平均ひずみ量が0.15~0.36 %の引張ひずみが導入されていることが確認された。
このグラフェンのコンダクタンスのバックゲート依存性を4端子測定で評価したところ、グラフェンのバンド構造を反映した顕著なゲート電圧依存性が見られたものの、室温と4.2 Kでコンダクタンスは殆ど変化しなかった。このことから、バンドギャップ形成の兆候は見られない、と結論付けた。その原因としては、ラメラ構造の方向がランダムに変化しているために、バンド構造の変調が起こらなかったことが挙げられる。
4.その他・特記事項(Others)
共同研究者である林正彦教授(秋田大)、吉岡英生教授(奈良女子大)、谷口尚博士(NIMS)、渡邊賢司博士(NIMS)に感謝します。本研究は、科研費新学術領域研究(ハイブリッド量子科学)(15H05867A)、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)(友利ひかり)の支援を受けて行われました。
また本研究では、NIMS分子・物質合成プラットフォームのレーザーラマン顕微鏡のほかに、筑波大学微細加工プラットフォームの電子線描画装置を使用しました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 友利ひかり, 中村和史, 田中貴弘, 神田晶申,日本物理学会2018年秋季大会,平成30年9月10日
6.関連特許(Patent)
なし