利用報告書

シャペロニンの揺らぎと相互作用の熱力学的研究
桑島 邦博
東京大学・大学院理学系研究科

課題番号 :S-16-MS-0027
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :シャペロニンの揺らぎと相互作用の熱力学的研究
Program Title (English) :Thermodynamic studies on the fluctuations and interactions of the chaperonin
利用者名(日本語) :桑島 邦博
Username (English) :K. Kuwajima
所属名(日本語) :東京大学・大学院理学系研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science, University of Tokyo

1.概要(Summary )
シャペロニンの揺らぎと相互作用を熱力学的に解析することを目的として,(1) 800 MHz NMR装置を用いて,15N標識GroESのSR1(GroELの単一リング変異体)による滴定を行った。GroESのフレキシブルループにあるアミドプロトン・シグナルの強度変化から,相互作用の結合定数(Kb)を求め,Kb = 9.7×105 M−1を得た。(2) 超高感度滴定型熱量計を用いて,SR1とGroESの相互作用を調べるため,高純度ADP固形粉末を調製した。ADP溶液中に僅かに存在するATPはSR1によって加水分解されるため,加水分解による熱量変化がSR1とGroESの相互作用測定を妨害する。ADP水溶液のイオン交換クロマトグラフィーにより純粋ADPを得た後,エタノール沈殿で固形ADPを得,それを,氷冷エタノールと氷冷ジエチルエーテルの順でリンスすることにより,目的の高純度ADP固形粉末を得た。

2.実験(Experimental)
分子科学研究所・機器センターに置かれている,高磁場NMR装置(Bruker Avance 800 US)を用いて,15N標識GroESと15N標識GroES-SR1複合体の異種核二次元NMRスペクトルを測定した。同じく,機器センターの等温滴定型カロリメーター(MicroCal iTC200)を用いて,GroESとSR1の相互作用測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
800 MHz超高分解能NMR装置を用いて測定した,15N標識GroESの1H–15N HSQCスペクトルを図1に示す。14個ほどのクロスピークが観測されるが,これらは,GroESのフレキシブルループ中のアミドプロトンであり,SR1で滴定することによりピークが消失した。SR1がGroESに結合することにより,フレキシブルループが分子内部に固定化されたためである。図2は,これらのクロスピークの強度変化から得られたGroESのSR1による滴定曲線であり,結合定数が9.7×105 M−1と見積もられた。

この結合定数を更に評価するため,等温滴定型熱量計(ITC)を用いて,SR1とGroESとの結合反応を調べた。その結果,図3にあるような異常な結果が得られた。SR1とGroESの結合反応測定にはK+イオン,Mg2+イオン,ADPが必要であるが,ADP中にコンタミネーションとして含まれるATPの影響でこのような結果が得られたことがわかった。SR1はATP加水分解酵素でもあるため,ごく微量でもATPが存在すると,その加水分解に伴う熱量変化が実験結果を妨害したのである。Q-Sepharose FFカラムを用いた,イオン交換クロマトグラフィーによって,ATPとADPを分離し,純粋なADPを得ることが出来た。

十分な純度のADP固形粉末を得るため,様々な方法を検討した結果,ADP水溶液のエタノール沈殿後,氷冷エタノールでリンスし,その後,氷冷ジエチルエーテルでリンス,室温で30分乾燥させることにより,十分な純度のADP固体粉末を得ることが出来た。次回以降,このADPを用いてITCの実験を行うことを計画している。

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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