利用報告書

シリコンクラスレート中のナトリウム原子およびガーネット結晶中のセリウムイオンの電子スピン共鳴
山家 光男
岐阜大学

課題番号 :S-16-MS-1060
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :シリコンクラスレート中のナトリウム原子およびガーネット結晶中のセリウムイオンの電子スピン共鳴
Program Title (English) :Electron spin resonance of sodium atoms in silicon clathrates and cerium ions in garnet crystals
利用者名(日本語) :山家 光男
Username (English) :Mitsuo Yamaga
所属名(日本語) :岐阜大学
Affiliation (English) :Gifu University

1.概要(Summary )
Si-クラスレートは新規太陽光発電素子として注目されている材料である。クラスレートとはSiがカゴ構造を形成し、従来のダイヤモンド構造に比べてバンドギャップが大きく、これまで報告された太陽光エネルギー変換効率~25%を大きく上回ることが期待される材料である。Si-クラスレートのカゴ構造はSiNの前駆体から形成され、カゴの中心にNaがすべて占める金属的な振舞いをするI型Si-クラスレートと、Na濃度をコントロールすることにより半導体から金属へと変化するII型Si-クラスレートに分類される。II型Si-クラスレート中のNa濃度は真空アニール温度・時間によりコントロールされる。ここでは金属性を示すI型Si-クラスレートおよびNa濃度が異なる半導体的な振舞いを示すII型Si-クラスレートの極低温でのESRを通してそれらの物性を評価する。
これとは別に、省エネ対策の一環として、白熱球・蛍光管から白色LEDといった照明の固体化の研究が挙げられる。この白色LEDは青色LEDとオレンジ・赤色蛍光体(セリウムイオン添加YAG)から構成されている。Ceイオンの発光効率を上げるために、結晶育成雰囲気を変えたり、いろいろなCe化合物を微量に添加する試みがなされている。ここでは、Ce発光効率がYAG中のCeイオンの対称性からどのように影響を受けるかを極低温でのESRを通して評価する。
2.実験(Experimental)
上述した2種類の試料を用いて、X-band Bruker E500を用いてESRの測定を3-300K の温度範囲で行った。
(1) I型II型Siクラスレートが混在した試料
(i) I型Si-クラスレート(Si46;Nax)がリッチな試料(バルク)
(ii) II型Si-クラスレート(Si138;Nax)がリッチでいろいなNa濃度を持つ試料(バルク)
ESR測定において観測されるNa原子は最外殻に3s不対電子をもち、電子はI=3/2の原子核スピンと相互作用して4本の超微細構造を示す。Na原子の濃度が高くなると、Naの3s電子の波動関数の広がりのために、この電子は格子を動きまわることができ、伝導電子となる。そこで、いろいろなNa濃度x(=0.9-11)を変化させ、孤立したNa原子から伝導電子へどのように移り変わっていくかを極低温で測定されたESRスペクトルの変化を通して調べる。
(2) いろいろな結晶育成雰囲気中(N2雰囲気;N2+2%H2雰囲気)で育成されたセリウムイオンを添加したYAG単結晶:
Ceイオンの電子状態は周りの結晶格子との相互作用が強く、室温ではESRは観測できない。極低温でのESRを測定し、ESRシグナルの角度変化からCeの対称性を調べる。
3.結果と考察(Results and Discussion)
通常の観測されたESRスペクトルはマイクロ波吸収を磁場で微分した形として表現される。ここでは、観測された微分形のESRスペクトルを磁場で積分し、再び、マイクロ波吸収の形で表現する。
図1にII型Si-クラスレートがリッチなx=0.9-11の試料の3.6KでのESRスペクトルを示す。x=0.9のスペクトル中の等間隔の4本のESR線(A1-A4)はNaの核スピン(I=3/2)との超微細構造によるものである。また、3400G付近に幅の広いESR線(C)が観測される。さらに、3440G付近に幅が狭い2つのESR線(D,E)が観測され、それらのg値は2.005と2.002である。次に、Na濃度を0.9から徐々に増加させるとA1-A4のESR強度が減少するとともに、後者の2つのESR信号(D,E)は増大する。これらのESR信号の温度依存性を調べることにより、A1-A4は孤立したNa原子、CはNa-Naペアー、DはSi欠陥に束縛された電子、Eは伝導電子によると同定される。
図2にI型・II型Si-クラスレートが混在したいろいろなNa濃度をもつ試料の3.6KでのESRスペクトルを示す。I型Si-クラスレートとII型Si-クラスレートの存在比が34:65でII型のNa濃度x=2.1のESRスペクトルでは、図1のx=4.6と同様に弱いA1-A4、幅の広いCと幅の狭いDが観測される。I型Si-クラスレートの存在比を増大し、Na濃度を大きくすると、Dを基準とした場合、A1-A4とCは減少する。I型Si-クラスレートは金属的な性質を示し、また、II型Si-クラスレート中のNa濃度xが8以上ではII型でも同様に金属的な性質を示す。これらのESRの結果は試料中の伝導電子の増加が直ちに伝導電子によるESR信号の増加へとは結び付かないことを示している。この原因として表皮効果が挙げられる。つまり、伝導電子の密度の増加によりマイロ波が試料中の金属的な領域に入り込めなくなり、ESR信号が増加するよりもむしろ減少することになる。
次にYAG 結晶中のCe3+イオンのESRについて述べる。Ce3+イオンは電子スピン・格子相互作用の結果格子緩和が速く、室温でのESR測定は難しい。10Kで観測されたESRスペクトルは磁気的に非等価な4本線からなる。これらの4本線は磁場が<110>に平行な場合、1本線に縮退する。

このことからCe3+中心は結晶学的に等価な<111>、<11-1>、<1-11>、<-111>の方向に主軸をもつ4つの3回対称中心であると推定される。

4.その他・特記事項(Others)
この研究は科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発プログラム(ALCA)(研究代表者:久米徹二)のもとで行われた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Mitsuo Yamaga, Takumi Kishita, Tetsuji Kume, Koki Uehara, Masaki Nomura, Fumitaka Ohashi , Takayuki Ban, Schuichi Nonomura, Electron-Spin Resonance of Type II Si-Clathrate Thin Film for New Solar Cell Material, Springer Proceedings in energy, International Congress on Energy Efficiency and Energy Related Materials (ENEFM2015),
DOI 10.1007/978-3-319-45677-5_26 pp 213-219 (2017).
6.関連特許(Patent)
なし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.