利用報告書

セラミックス変形治具を用いた高速摩擦実験によるESR信号特性変化に関する研究
田中桐葉1)(1) 東北大学大学院理学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1061
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :セラミックス変形治具を用いた高速摩擦実験によるESR信号特性変化に関する研究
Program Title (English) :ESR intensity change by high-velocity friction experiments using ceramics
利用者名(日本語) :田中桐葉1)
Username (English) :K. Tanaka1)
所属名(日本語) :1) 東北大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) Science、Tohoku University

1.概要(Summary )
断層岩中の石英を年代測定試料とするESR法を用いた断層年代推定法は、断層運動によって石英中のESR信号強度が0になるという前提が成立する必要があるがその理解は十分でない。そこで、断層運動の摩擦発熱が石英中のESR信号の1つであるE1’中心に及ぼす影響を明らかにするため人工水晶粉末の高速摩擦実験を行っている。2020年度は、摩擦実験の出発物質として用いる試料の作成に必要な処理(加熱・γ線照射)の適切な条件を決定した。
2.実験(Experimental) 使用した装置:ESR(E-500)
 摩擦実験で用いる出発物質(45–300µm)の適切な作成方法を決めるため、下記の処理をした試料①–⑤および何も充填していない試料管⑥のESR測定を行った。
① 粉砕(日本電波工業の人工水晶)
② 粉砕・加熱(400・450・500℃、15・30・60分)
③ 粉砕・加熱(50O℃、30分)・γ線照射(0.09–3 kGy/h、 0.25–15kGy)
④ 粉砕・加熱(50O℃、30分)・γ線照射(0.09–3 kGy/h、0.25–15kGy)・加熱(17O℃、15分)
⑤ 粉砕・加熱(50O℃、30分)・γ線照射(0.09–3 kGy/h、0.25–15kGy)・加熱(100–550℃、15・30分)
粉砕は一軸圧縮試験機、加熱は電気炉、γ線照射は高崎量子応用研究所所有の60Co線源を用いて行った。
E1’中心/標準物質の信号を検出するための測定条件は、磁場変調幅0.05/0.05 mT、マイクロ波電力0.01/1 mW、掃引幅1/10 mT、掃引時間167.77/83.89 s、時定数0.16384/0.16384 sとした。E1’中心の信号強度は、E1’中心のピーク高(g=2.001)を標準物質のピーク高(g=1.98)で除して算出した値とした。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 ①–⑤から得られたESRスペクトルには、E1’中心に由来する信号が見られた。⑥からも非常に小さかったが同様の信号が見られた。②は、粉砕前後に含まれていたE1’中心を除去するための加熱条件を決めるために作成され、500℃・30分で加熱した試料から得られたESRスペクトルの形状・強度は⑥から得られたものとほとんど同じであった。③は、γ線照射量、線量率、照射方法(連続または断続照射)とE1’中心の信号強度の関係を調べ、最終的な照射条件を決めるために作成された。信号強度は、照射線量とともに増大し、15 kGyで出発物質の約11倍に達した。一方、照射率、照射方法に対する依存性は見られなかった。γ線照射は、E1’中心と同位置にCounterfeit E1’中心も生成する。④は、それを除去するために加熱して作成したが、どの試料の信号強度もほとんど変化していなかった。そこで、様々な条件で加熱して作成した⑤から、200℃・30分での加熱が必要であることが明らかとなった。その後、③の試料の一部をその条件で加熱し、東北大学にある卓上ESR(MS400)でESR測定を行ったところ、どの試料の信号強度も半分程度まで低下していた。東北大の装置は感度が低いため、正確な強度を算出するにはESR(E-500)での測定が必要だが、以上の計測から、E1’中心を生成させる適切な条件を、粉砕後の加熱(500℃・30分)、γ線照射(0.2 kGy/h、3 kGy)、γ線照射後の加熱(200℃・30分)に決定した。
4.その他・特記事項(Others)
研究の進捗状況:COVID-19の影響で進捗が遅れており、摩擦実験試料のESR測定は2021年度に実施予定である。
謝辞:装置の使用方法の指導をしていただいた藤原主任技術員、浅田技術員、伊木特任専門員に感謝する。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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