利用報告書

ナノマテリアルの体内動態に立脚した安全科学研究
吉本梨紗1), 田﨑一慶1), 飛島 匠1), 生野雄大1), 石坂拓也1), 長野一也1), 辻野博文1),
1) 大阪大学大学院薬学研究科

課題番号 :S-20-NR-0024
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :ナノマテリアルの体内動態に立脚した安全科学研究
Program Title (English) :Safety Science Study of Nanomaterials based on Pharmacokinetics
利用者名(日本語) :吉本梨紗1), 田﨑一慶1), 飛島 匠1), 生野雄大1), 石坂拓也1),
長野一也1), 辻野博文1)
Username (English) :R. Yoshimoto1), I. Tasaki1), T. Tobishima1), Y. Ikuno1), T. Ishizaka1),
K. Nagano1), H. Tsujino1)
所属名(日本語) :1) 大阪大学大学院薬学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Pharmaceutical Science, Osaka University

1.概要(Summary )
100 nm以下の素材であるナノマテリアル(NM)は、サイズの微小化により、従来素材と比較して、組織浸透性が高いといった機能を有しており、幅広い領域で応用されている。その一方で、NMは、その微小化によって、従来素材とは異なる体内動態を示すことから、未知の生体影響を誘発し得ることが懸念されている。本観点から我々はこれまでに、ナノ安全科学研究を推進するため、体内動態・物性・ハザードの連関解析を推進してきた。具体的には、生殖発生毒性に着目し、非晶質ナノシリカを妊娠マウスに投与した際の体内動態を解析したところ、胎盤に移行していることが明らかとなった。そこで、胎仔への影響を観察した結果、胎仔発育不全を誘発していることが示唆された。その一方で、粒子表面の物性を変化させると、胎盤まで同様に移行するものの、胎仔の発育に影響は認められず、安全なNMの開発に資する知見を収集してきた。
しかし、上記の成果は一端であり、NMの体内・細胞内動態情報は、不足しているのが現状である。
そこで本研究では、NMの体内・細胞内での分布などを各種電子顕微鏡で解析することで、動態に立脚したナノ安全科学研究を推進することを目的とする。

2.実験(Experimental)
・NMの体内動態解析:
各消化液(唾液・胃液・腸液)中のNMの大きさや形状を透過型電子顕微鏡装置(TEM:JEOL JEM-3100FEF)にて観察した。また、TEMのみならず走査型透過電子顕微鏡(STEM:HD-2700)でも観察のうえ、成分元素も同定した。
・NMの細胞内動態解析:
細胞から放出される小胞(EV)画分を濃縮後、CryoTEMで観察した。また、NMを添加した細胞から、EV画分を濃縮し、トモグラフィー法で、NMの局在を検証した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
・NMの体内動態解析:
NMの体内動態を解析する一環として、経口曝露を想定し、各消化液(唾液・胃液・腸液)中のNMの大きさや形状をTEM・STEMで観察した。その結果、唾液ではNMの大きさや形状は変化しない一方で、胃液で粒径が小さくなり、形状も凹凸が認められ、イオン化している可能性が考えられた。
・NMの細胞内動態解析:
NMの細胞内動態を解析する一環として、未解明な排泄過程に着目し、EVの関与を検証した。まず、EVをCryoTEMで観察できることを確認したうえで、NMを細胞に添加し、EV画分中のNMを観察した。その結果、NMは細胞外小胞中に観察され、±35°傾けて観察しても、小胞内に分布していたことから、小胞膜に接着していたというより、小胞膜に内包されて排泄されていることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
NAISTの准教授:安原主馬先生、技術職員:藤田咲子氏と宮家和宏氏、技術補佐職員の大野智子氏に御担当いただいた。
本研究は、R2年度試行的利用の採択を受け実施した。
尚、上記の成果をもとに、2020年度長期課題発表会において、田﨑一慶が発表のうえ、審査をうけ、大阪大学薬学部薬友会賞・若手奨励賞を受賞(該当者1名)した。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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