利用報告書

ナノ材料を用いたガスセンサーの作製と微視的アプローチによる応答メカニズムの解明
清水優, 田代征久, 田中康, 田畑博史
大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻

課題番号 :S-16-OS-0033
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :ナノ材料を用いたガスセンサーの作製と微視的アプローチによる応答メカニズムの解明
Program Title (English) :Fabrication of gas sensor based on nanomaterials and investigation of their response mechanism by a microscopic approach
利用者名(日本語) :清水優, 田代征久, 田中康, 田畑博史
Username (English) :M. Shimizu, Y. Tashiro, K. Tanaka, H. Tabata
所属名(日本語) :大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻
Affiliation (English) :Dep. of Electrical, Electronics and Information Eng., Grad. School of Eng.,
Osaka Univ.

1.概要(Summary)
酸化グラフェン(Graphene Oxide; GO)はグラファイトを酸化して得られる、多数の酸素含有官能基を持つ絶縁性の層状物質である。分散液の塗布により薄膜化が容易なことから、様々な応用が研究されている。このGO膜は層間に様々なガス分子を吸蔵することが知られており、ガスセンシング材料としても期待される。特に、水分子と強い相互作用を示すことから湿度センサーとしての研究が進んでいる[1]。今回、我々はこのGO膜をガスセンシティブな誘電材料として用いた容量変化型ガスセンサーを作製した。そして、水蒸気および揮発性有機化合物ガス(VOC)曝露に対する静電容量変化を測定し、この応答に基づいて、これらのガス分子とGO膜との相互作用の解明に取り組んだ。本報告では、GO膜の静電容量変化の要因の一つとして考えられるガス吸蔵によるGO膜の膜厚膨張の影響を評価するために行った、各種ガス雰囲気中で行ったGO膜のAFM測定について述べる。

2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
環境制御型走査型プローブ顕微鏡システム
電子ビームリソグラフィ装置
【実験方法】
Al2O3膜(50 nm)付シリコン基板上にGO分散液を滴下乾燥して、平均膜厚120 nmのGO膜を形成した。このGO薄膜上に電子ビームリソグラフィ(@微細加工プラットフォーム)、マスクレスリソグラフィ、電子ビーム蒸着装置を用いて櫛形の電極(Au 100 nm / Ti 20 nm)を形成することにより、キャパシタ構造のデバイスを作製した。このデバイスのGO膜について、環境制御型走査型プローブ顕微鏡システム(@分子・物質合成プラットフォーム)を用いて、表面観察及び高さ測定を行った。測定は、試料を一度真空中100℃で加熱して吸着ガスを脱離させた後、室温、大気圧に戻して、乾燥窒素、およびメタノール、エタノール、水蒸気の各ガス雰囲気に曝し、十分に時間が経過した後にDFMモードで行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
GO膜のAFM像および、窒素雰囲気中と水蒸気中で測定した同一箇所のラインプロファイルをFig. 1に示す。窒素雰囲気中と比べ、水蒸気中でGO膜の膜厚はおよそ20%の膨張が見られた。他の蒸気中でも同様に膜厚が膨張する傾向が見られた。この膜厚増加はGO膜の層間へのガス分子のインターカレーションによって引き起こされているものと考えられる。各ガス雰囲気中で見積もられた膜厚膨張率と溶解パラメータ(SP)の相関をFig. 2に示す。GOのSP値は44.9 MPa1/2[2]と報告されており、この値に近いSP値をもつ水が最も大きな膜厚膨張を示し、メタノール、エタノールが続いた。このことから、水との相互作用が最も強く、より多くの水分子を吸蔵することが確認された。
作製したデバイスを用いて、各ガスに対するキャパシタンス応答を測定したところ、水蒸気の場合はキャパシタンス増加、メタノール、エタノール蒸気の場合は減少する応答を示した。この極性の異なる応答は、ガス分子吸蔵が引き起こす、GO膜の膜厚増加とGO膜の実効的な誘電率変化の2つの要因が競合的に関与していることを示唆していると考えられる。今回、AFM測定で見積もられた膜厚膨張量は、GO膜のこの応答メカニズムを定量的に議論するうえで、有力な情報となると考えられる。

4.その他・特記事項(Others)
参考文献
[1] R. Guo et al., Comp. Mater. Sci. 111 (2016) 289.
[2] E. K. Goharshadi et al., RSC Adv. 5 (2015) 106421.
・北島彰様、柏倉美紀様(ナノテクノロジー設備供用拠点)に感謝いたします。
・関連する課題番号;F-16-OS-0045

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.