利用報告書
課題番号 :S-19-NI-0009
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :ナノ結晶のカチオン交換反応中の結晶構造変化に関する形状依存性の解明
Program Title (English) :Revealing shape dependence for crystal structural transformation of ionic nanocrystals during cation exchange reaction
利用者名(日本語) :李展召1), 猿山雅亮2), 寺西利治2)
Username (English) :Z. Li1), M. Saruyama2), T. Teranishi2)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院理学研究科, 2) 京都大学化学研究所
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science, Kyoto University, 2) Institute for Chemical Research, Kyoto University.
1.概要(Summary)
イオン性無機結晶の結晶構造はその物性に大きな影響を与えることから、不安定構造を含めた構造制御はきわめて重要である。しかしながら、熱力学的に不安定な結晶構造の生成には高温高圧などの過酷な条件を必要とする場合が多い。我々は、ナノサイズのイオン結晶の特定の形状において、カチオン交換中に通常は起こらないアニオン配列の変化が生じることをはじめて発見した。本研究では、上記の構造変化の起源解明を目的とする。具体的には、カチオン交換前後および途中で生成するナノ結晶について、個々の結晶方位や元素分布を詳細に観察・分析し、形状に依存した新しい結晶構造変化のメカニズムを解明し、新たな結晶構造制御手法を提案することを目指す。
2.実験(Experimental)
測定対象としたナノ結晶は、2-プロパノールで洗浄したのちクロロホルム中で分散した。少量の分散液をカーボン被覆されたMo製のマイクログリッド上に滴下することでTEM観察用試料とした。TEM観察には日本電子製JEM-ARM200Fを加速電圧200 kVで使用した。高分解能TEM(HRTEM)観察に加えて、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)でもナノ結晶の観察を行った。またEDSをSTEM法と併用し(STEM-EDS)、高空間分解能での組成分析を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
ロッド状またはプレート状に形状制御されたCu1.8Sナノ結晶をカチオン交換反応の母体として合成し、HRTEM観察によりどちらも(400)面が底面を構成することを確認した。これらをCo2+でカチオン交換すると、それぞれCo9S8ナノロッド、CoSナノプレートが得られた。HRTEM像から結晶方位を推定すると、カチオン交換後もナノプレートでは六方最密構造のSアニオン格子が維持されているが、ナノロッドでは立方最密構造に変化していることが分かった。この形状に依存した構造変化の原因を探るため、カチオン交換途中の試料を合成し、HRTEMおよびSTEM観察により反応メカニズムの違いを検証した。STEM-EDS像から、ナノロッドでは一つの端から交換が進行し、ナノプレートでは角部から進行することが明らかになった。構造変化にはSアニオン格子を構成するS層のスライドが必要であるが、プレートでは中央部に残存するCu1.8S層がスライドを抑制するために速度論的に準安定CoS相が安定化されると考えられる。一方でロッドではS層に隣接するCu+すべてがCo2+に置換されるため、熱力学的に安定なCo9S8相への転移が自発的に起こると考えられる。
Co以外のカチオンでは形状依存性は見られず、Zn、Mnでは構造が維持され、Niではプレート・ロッドどちらも構造変化が生じた。Coとの違いについては、対応する硫化物の安定相と準安定相との間の熱力学的安定性の差が大きく関連していると考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
JEM-ARM200Fによる観察は、名古屋工業大学の浅香透准教授とSharma Subash研究員の技術支援を受けて行われた。本研究はJSPS科学研究費補助金・若手研究BおよびJSPS特別研究員奨励費の支援を受けて行われた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Z. Li, M. Saruyama, T. Teranishi, 第100日本化学会春季年会, 令和2年3月22日
6.関連特許(Patent)
なし。