利用報告書
課題番号 :S-20-NI-0020
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :ナノ結晶のカチオン交換反応中の結晶構造変化に関する形状依存性の解明
Program Title (English) :Revealing shape dependence for crystal structural transformation of ionic nanocrystals during cation exchange reaction
利用者名(日本語) :李展召1), 猿山雅亮2)
Username (English) :Z. Li1), M. Saruyama2)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院理学研究科, 2) 京都大学化学研究所
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science, Kyoto University, 2) Institute for Chemical Research, Kyoto University.
1.概要(Summary )
イオン性無機結晶の結晶構造はその物性に大きな影響を与えることから、不安定構造を含めた構造制御はきわめて重要である。しかしながら、熱力学的に不安定な結晶構造の生成には高温高圧などの過酷な条件を必要とする場合が多い。我々は、ナノサイズのイオン結晶の形状が、カチオン交換中にアニオン配列の変化を引き起こす要因での一つであることをはじめて発見した。本研究では、上記の構造変化の起源解明を目的とした。具体的には、カチオン交換前後および途中で生成するナノ結晶について、個々の結晶方位や元素分布を詳細に観察・分析し、形状に依存した新しい結晶構造変化のメカニズムを解明し、新たな結晶構造制御手法を提案することを目指した。
2.実験(Experimental)
測定対象としたナノ結晶は、2-プロパノールで洗浄したのちクロロホルム中で分散した。少量の分散液をカーボン被覆されたCuまたはMo製のマイクログリッド上に滴下することでTEM観察用試料とした。TEM観察には日本電子製JEM-ARM200Fを加速電圧200 kVで使用した。高分解能TEM(HRTEM)観察に加えて、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)でもナノ結晶の観察を行った。またEDSをSTEM法と併用し(STEM-EDS)、高空間分解能での組成分析を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
カチオン交換の母体として高さの異なる六角柱型のCu2-xSナノ結晶を複数種類合成した。HRTEM像によりどちらも(400)面が底面を構成することを確認した。これらをCo2+でカチオン交換すると、高さが大きくなるにつれてCoSからCo9S8へと最終的な結晶構造が変化することが分かった。この形状に依存した結晶構造変化の原因を探るため、Cu+の一部のみをカチオン交換したナノ粒子の観察を行った。STEM-EDS像から、同じCo9S8を生成するナノ結晶でも、カチオン交換が(400)から進行する場合と(010)から進行する場合があり、反応の進行方向は結晶構造を決定する要因ではないことが判明した。また、反応温度を変化させた場合、CoSでも高温条件ではCo9S8に変化することが分かり、高さが小さいプレート状ナノ結晶でのみ不安定なCoS相が速度論的にかろうじて維持されている状態であることを明らかにした。これらの結果は、ナノ結晶が露出する結晶面の種類が、全体の結晶構造の安定化に大きく寄与することを示唆するものであり、今後の理論計算により詳細を明らかにする予定である。
4.その他・特記事項(Others)
本研究の中の合成実験は日本学術振興会科学研究費補助金(20K21236)の支援で行われた。ARM測定は名古屋工業大学の浅香透准教授に協力いただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Zhanzhao Li, Masaki Saruyama, Toshiharu Teranishi, 日本化学会第101年会, 令和3年3月22日
(2) 猿山 雅亮, 中川 芙美子, 高畑 遼, 佐藤 良太, 寺西 利治, 日本化学会第101年会, 令和3年3月21日
(3) Zhanzhao Li, Masaki Saruyama, Toshiharu Teranishi, ナノ学会第18回大会, 令和2年5月27日
6.関連特許(Patent)
なし