利用報告書

パルスESR法による光化学系等の電子状態解明
中村敏和1),浅田瑞枝1),三野広幸2)
1) 分子科学研究所, 2)名古屋大学

課題番号 :S-16-MS-1051
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :パルスESR法による光化学系等の電子状態解明
Program Title (English) :Electronic Properties of photosystem II investigated by pulsed-ESR
利用者名(日本語) :中村敏和1),浅田瑞枝1),三野広幸2)
Username (English) :T. Nakamura1), M. Asada1), H. Mino2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2)名古屋大学
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) Nagoya Univ.

1.概要(Summary )
光化学系(PS)IIは、光合成反応過程において水から電子を引き抜き、酸素発生を行う膜タンパク質である。PS II内にはMnクラスターと呼ばれる部分があり、酸素発生反応において水と直接反応する触媒として機能する。Mnクラスターは4つのMn、1つのCa、5つのO原子で構成される。Mnクラスターの形成過程は光活性化と呼ばれ、Mnクラスター除去PSIIにMn2+、Ca2+、Cl-イオンを添加し光照射すると、Mnクラスターの形成が自発的に進むことがわかっている。このような自己生成および自己修復過程は、細胞内での高効率な光合成反応の鍵となっている可能性があり、解明が期待される。
近年、X線結晶構造解析によりPS II構造および安定状態におけるMnクラスターの分子構造が高分解能で得られたが、PSIIの形成、失活過程におけるMnクラスターの過渡的な構造は未だ不明であり、その構築過程は明らかになっていない。

2.実験(Experimental)
電子スピン共鳴(パルス磁場掃引測定、PELDOR測定)

電子-電子二重共鳴(PELDOR)法は、スピン間に働く双極子相互作用を高い精度で測定するパルスESR法のひとつである。本課題では、パルスESR法を用いてMnクラスターの中間生成物の電子構造を解明することを目的とする。
Tris緩衝液を用いてMnクラスターを除去したPSIIに対し、MnCl2を加えることで、Mn2+イオンが特異的に1つだけ結合したPSIIを作製する。結合したMn2+は光照射とそれに伴う電子移動反応により酸化されMn3+になりその後、新たにMn2+が結合しMnクラスターの前駆体を形成する。X-band ESR測定によるMn2+-Mn3+中間体の電子状態の検出と、PELDOR測定によるPSII内に安定に存在するチロシンラジカルとの距離測定を試みる。

3.結果と考察(Results and Discussion)
Mn2+が結合したPSIIの磁場掃引スペクトルについて、g=2付近のMnのESR信号とチロシンラジカルに対しPELDOR測定を行った。1つのMn2+が結合した場合と同じ信号となったことから、中間体形成の効率が悪く、ほとんどのPSIIはバックリアクションが起こり、Mnクラスター形成反応が進まなかったと考えられる。今後、Mn2+-Mn3+中間体形成のための光照射条件を再検討し、追試を行う。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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