利用報告書
課題番号 :S-19-MS-0013b
利用形態 :協力研究(ナノプラット)<後期>
利用課題名(日本語) :ヒト肝ミクロソームを用いたα-PPPの光学活性代謝物の生成量評価
Program Title (English) :Evaluation of chiral metabolites of α-PPP in human liver microsomes using capillary electrophoresis–triple quadrupole mass spectrometry
利用者名(日本語) :村上 貴哉
Username (English) :T. Murakami
所属名(日本語) :石川県警察本部刑事部科学捜査研究所
Affiliation (English) :Forensic Science Laboratory, Ishikawa Prefectural Police H.Q.
1.概要(Summary)
危険ドラッグ「カチノン類」の代謝機構はある程度解明されたものの,カチノン類およびその代謝物はいずれも不斉中心を有しており,これら光学異性体の代謝量まで個々に評価した報告は今のところ見られない.乱用目的で流通されているカチノン類はすべてラセミ体であることから,もし光学異性体間で代謝変化量やその量比に差異があるならば,新たな代謝挙動を明らかにすることができるだけでなく,それを指標とした薬物の摂取時期推定も期待できる.本研究において,α-ピロリジノアルキルフェノン系カチノン類の基本構造であるα-pyrrolidinopropiophenone(α-PPP)をヒト肝ミクロソーム(HLMs)処理し,シクロデキストリン(CD)の包接作用を利用したキャピラリー電気泳動タンデム質量分析法(CE-MS/MS)を用いて光学活性代謝物の生成量について評価したところ,新たな知見を得ることができたので報告する.
2.実験(Experimental)
【分析対象】α-PPPおよびその代謝物1-phenyl-2-(pyrrolidine-1-yl)propan-1-ol(OH-α-PPP),1-phenyl-2-(2-oxo-pyrrolidin-1-yl)propan-1-one(2”-oxo-α-PPP)の各光学異性体計8種.これらは,分子科学研究所の日本分光製高速液体クロマトグラフJASCO LC-2000plus,ダイセル製キラルカラムCHIRALCEL OD-3およびOD-Hを用いてラセミ体から光学分割し,日本分光製JASCO P-1020で旋光度測定したものを使用した.
【代謝試料調製】α-PPP(ラセミ体)にNADPH再生系試薬およびHLMsを添加し,37°Cで一定時間インキュベートした.反応終了後,クロロホルム−2-プロパノール(3:1, v/v)で抽出し,蒸発乾固後,水で再溶解したものを分析試料とした.
【分析条件】装置 Agilent Technologies 製6470 triple quad CE/MS system CE条件 キャピラリー:50 μm i.d. × 100 cm bare fused-silica,印加電圧:+30 kV,泳動液:キラルセレクターとして各種アニオン性CDを含有する1 Mギ酸−1 Mギ酸アンモニウム水溶液(50:1, v/v, pH 2.0) MS/MS条件 イオン化法:ESI(positive),シース液:10 mM酢酸アンモニウム–メタノール(1:1, v/v, 8 μL/min),分析モード:MRM,コリジョンガス:N2
3.結果と考察(Results and Discussion)
CE泳動液に添加するキラルセレクターについて検討したところ,heptakis(2,6-diacetyl-6-sulfato)-β-CD (DAS-β-CD, 1.2 mM)およびhighly sulfated γ-CD(HS-γ-CD, 0.4 mM)を添加した条件で,α-PPPとOH-α-PPPの各光学異性体および2”-oxo-α-PPPを一斉分析することができた.α-PPP(ラセミ体)をNADPH要求性酵素活性条件にてHLMs処理したところ,代謝物としてOH-α-PPPおよび2”-oxo-α-PPPの生成が認められた.OH-α-PPPの4種の光学異性体の生成量はそれぞれ顕著に異なることが明らかとなり(下図),第I相反応におけるカルボニル還元反応は立体選択的に進行することがわかった.一方,2”-oxo-α-PPPの生成量はOH-α-PPPの総生成量に比べて少なく,反応時間に対する増加傾向はみられなかった.
4.謝辞(Acknowledgment)
本研究を行うにあたり,分子科学研究所 椴山儀恵准教授,大塚尚哉助教に多大なるご協力・ご支援を賜りました.心より御礼申し上げます.また,本研究の一部はJSPS科研費(Nos. 17H00544, 19H00471)の助成により行われました.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
村上貴哉,石丸麗子,岩室嘉晃,地中啓,大塚尚哉,椴山儀恵,長谷川浩,日本法中毒学会第38年会,令和元年7月26日
6.関連特許(Patent)
なし