利用報告書

フッ素化有機n型半導体の開発
中嶋 敦1)
1) 慶應義塾大学理工学部

課題番号 :S-19-MS-0041
利用形態 :協力研究(ナノプラット)<後期>
利用課題名(日本語) :フッ素化有機n型半導体の開発
Program Title (English) :Characterization of n-type fluorinated organic semiconductor
利用者名(日本語) :中嶋 敦1)
Username (English) :Atsushi Nakajima1)
所属名(日本語) :1) 慶應義塾大学理工学部
Affiliation (English) :1) Faculty of Science and Technology, Keio University

1.概要(Summary )
 本研究では、鈴木敏泰チームリーダーが2017年に米国化学会、The Journal of Organic Chemistry誌82巻8111ページに報告した化合物、全フッ素化および半フッ素化ルブレンの合成を依頼し、その薄膜の電子物性の解明に関して共同研究を行なった。研究対象のルブレン分子は、有機半導体の分野で注目される有機分子であり、有機太陽電池での活用が期待されている。有機分子のフッ素化は分子構造をほとんど変えずに電子準位のエネルギー位置を制御することを可能とし、その薄膜での電子状態の解明は、電荷の授受における電子準位を設計するための基礎物性として重要である。
 研究の遂行では、半フッ素化および、全フッ素化したルブレン分子の合成を椴山グループと鈴木・合成チームが担当し、薄膜の形成と2光子光電子分光を含む光電子分光測定によって、被占有準位、空準位などの分光測定を中嶋グループが担当し、フッ素化によるエネルギー準位の変化を定量的に評価した。
2.実験(Experimental)
 分子研の椴山グループと鈴木・合成チームの有する卓越した合成技術による半フッ素化および全フッ素化ルブレンについて、マイクロバランスを用いた膜厚計によって真空中における有機薄膜の形成を最適化した。蒸着基板にはグラファイト基板を用い、規定された蒸着速度で単層薄膜を形成させて測定試料とした。ルブレン蒸着薄膜に対して、超高真空装置内において紫外光電子分光を用いて、電子が占有している被占有準位のエネルギー位置を求めた。また、超高速フェムト秒レーザーを用いた2光子光電子分光によって、電子が非占有の空軌道のエネルギー位置を求めた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 水素原子をフッ素化していないルブレン分子を含めてフェルミ準位付近のエネルギー準位を比較したところ、すべての準位の軌道エネルギーがフッ素化によって低下していることを定量的に明らかにした。フッ素化による占有準位と空準位の軌道エネルギーの低下の程度を比べたところ、占有準位の低下の方が大きいことがわかった。この低下の程度の差は、フッ素化によって隣接分子間との静電的相互作用が小さくなることで各軌道のエネルギー分散が小さくなるためであると考えられ、各軌道エネルギーの低下とともに起こる結果、占有準位の最高被占準位(HOMO)の低下が強められ、逆に最低空準位(LUMO)の低下は鈍化するものと理解できる。
 この結果、フッ素化されたルブレン分子では、フッ素化の程度を半フッ素化、全フッ素化するにつれてHOMO-LUMO(H-L)ギャップが大きくなり、全フッ素化ルブレン薄膜では、3.11 eVのH-Lギャップをもつことを明らかにした。フッ素化された有機分子のエネルギー準位に関するこのような定量的な評価は、有機半導体を用いた有機デバイスをフッ素化によって最適化する上で信頼性の高い設計指針を与えるもので、有機分子のフッ素化とその薄膜の分光測定の意義はさらに広がっていくものと考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Tomoya Inoue, Masahiro Shibuta, Toshiyasu Suzuki and Atsushi Nakajima, The Journal of Physical Chemistry C, under revisions.
6.関連特許(Patent)
なし。

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