利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1072
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :フラーレンケージ内における反応性のESR観測
Program Title (English) :ESR measurements of reactivity within the fullerene cage.
利用者名(日本語) :加藤立久
Username (English) :Tatsuhisa Kato
所属名(日本語) :京都大学国際高等教育院
Affiliation (English) :Institute for Liberal Arts and Sciences, Kyoto University
1.概要(Summary )
新規合成された内包フラーレンO2@openC60 が,O2の基底スピン三重項状態を保存していることを電子スピン共鳴 (ESR) 測定を用いて証明し,内包されることにより本来のO2と異なるESRパラメータを持つことを示した.O2@openC60は,固体結晶状態でありながら常磁性種が分散して,分子間の磁気的相互作用が抑えられた物質であることが示された.
2.実験(Experimental)
電子スピン共鳴(ESR)法によるESR装置 Bruker E680,ESR装置 Bruker E500 を用いてESRスペクトルを測定した.
3.結果と考察(Results and Discussion)
酸素O2は,スピン三重項基底状態を示す基本的な二原子分子であり,分子構造,電子状態は気相状態で詳細に研究されている.しかし,固体状態で分散したO2について観測された報告例は少ない.その理由は,O2を分散して安定な状態で固定することが極めて困難なためである.京大化研・村田研が,分子手術法いう化学合成法を用いて,ケージを開口させたopenC60 に高圧下でO2を押し込み,開口部にOH基を付加させて,O2を閉じ込めることに成功した.そこでopenC60に内包されたO2が基底スピン三重項状態を保存するかを確認するため,異なる周波数のマイクロ波を用いたESR測定を行った.単結晶X線回折測定により,O2がopenC60ケージの中央に内包され,最近接O2分子間距離が9.7Å以上あることが分かり, 1H-NMR測定ではO2を閉じ込めるOH基のプロトン信号が消失することが示された.また,SQUID測定よりO2@openC60が常磁性を示すことも分かった.そこで,分子磁性をより詳細に知るためESR測定を行った.まずW-band測定(95 GHz)のマイクロ波を用いたESR測定行い,予測通り共鳴磁場600mTで許容遷移が観測された.一方X-band(9 GHz)のマクロ波を用いたESR測定では,共鳴磁場1200mTに禁制遷移が観測された.これにより,O2@openC60は酸素の基底スピン三重項状態を保存していることが証明された.また,電子スピン双極子相互作用に由来する,微細構造定数D値の減少とE値の出現が分かった.前者は内包されたO2が炭素ケージ内で制限振動運動することに由来し,振動運動による平均化で本来のD値よりも小さくなることで説明された.後者はO2とopenC60との相互作用により,対称性が低下したことに由来すると説明されていて,すなわちO2を閉じ込めるために付加したOH基との相互作用により対称性が崩れ、E値が出現したと考えられる.
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 加藤梓,二子石師,村田靖次郞,加藤立久, 第50回フラーレン・ナノテューブ・グラフェン総合シンポジウム,平成28年2月22日.
(2) 加藤梓,二子石師,村田靖次郞,加藤立久, 第51回フラーレン・ナノテューブ・グラフェン総合シンポジウム,平成28年9月8日.
(3) Tsukasa Futagoishi,Tomoko Aharen, Tatsuhisa Kato,Azusa Kato,Toshiyuki Ihara, Tomofumi Tada, Michihisa Murata, Atsushi Wakamiya,Hiroshi Kageyama,Yoshihiko Kanemitsu, Yasujiro Murata, Angewandte Chemie, a journal of the Gesellschaft Deutscher Chemiker (German Chemical Society, GDCh)(2017)to be published.
6.関連特許(Patent)
なし







