利用報告書

プロテオミクスのためのLC-MSの応用
荒川隆一、川崎英也
関西大学

課題番号 :S-16-JI-0008
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :プロテオミクスのためのLC-MSの応用
Program Title (English) :Application of LC-MS for proteomic analysis
利用者名(日本語) :荒川隆一・川崎英也
Username (English) :R. Arakawa
所属名(日本語) :関西大学
Affiliation (English) :Kansai University

1.概要(Summary )
翻訳後修飾タンパク質はその修飾官能基の種類、数とその位置が多様であり,さらに微量であるため,高い検出感度と同定精度が求められる.翻訳後修飾タンパク質の解析のためにはタンパク質を酵素消化して得られたペプチド断片を質量分析する.しかし,リン酸基や糖鎖が修飾されたタンパク質やペプチドのイオン収量は低いために,構造解析が困難でありその同定精度も低い.
これらの問題を解決するために,我々が開発した二つのLC-MSクロマトグラムを一つに統合して2次元マップを作成する手法(LC-MS 2Dマッピング法)を用いて翻訳後修飾タンパク質を解析する.
2.実験(Experimental)
糖タンパク質試料にはribonuclease B (RNase B)のトリプシン消化物を用いた.装置はFT-ICR MSのSolariX (Bruker Daltonics),HPLCはProminence (Shimadzu Corp.)を用いた.逆相(RP) LC-MSではInertsil ODS-3 (GL science) カラム,親水性相互作用(HILIC)を用いたLC-MSではTSKgel Amide-80 (Tosoh)カラムを用いた.2次元マップは,二つのデータに共通するm/z値の保持時間(tR)をプロットした.縦軸はRP LC-MSのtR,横軸にはHILIC LC-MSのtRとした.(Fig.1. )
3.結果と考察(Results and Discussion)
実験はイオン化法としてESIを適用したLC-MSを用いて行った.RNase B 消化物のLC-MSの結果,アミノ酸配列のカバー率は68 %であった.検出できたペプチド断片のうち,糖ペプチドは9種類であった.糖ペプチドはRP LC-MSでは十分に分離されることができなかったが,HILIC LC-MSでは十分に分離された.一方,非修飾ペプチドはRP LC-MSでは十分に分離されたが,HILIC LC-MSでは十分に分離されなかった.糖ペプチドと非修飾ペプチドの両方を十分に分離して簡便に解析するために,RPとHILIC LC-MSクロマトグラムを統合した2Dマッピングを行った.2Dマップでは,全てのペプチドが別の座標にプロットされており,解析がより簡便になった.同様の実験をLC-MALDI-MSで行った結果,糖ペプチドは10種類検出され,LC-ESI-MSでは検出できなかったペプチド断片を検出することができた.LC-MALDI-MSの2Dマッピングは,目的化合物のイオン化に適したマトリックスを用いることで高感度かつ迅速簡便に糖ペプチドと非修飾ペプチドの識別やそれらの構造解析を行うことができる.以上より,糖タンパク質を迅速かつ簡便に解析するためには,LC-MALDI-MSを適用した2Dマッピング法が有効であることが示唆された.
4.その他・特記事項(Others)
北陸先端科学技術大学院大学の大坂一生博士と宮里朗夫博士の技術指導により分析を行った.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) A. Tarui, T. Fukuda, S. Ohki, H. Kawasaki, R. Arakawa, I. Osaka,21th International Mass Spectrometry Conference,Metro Toronto Convention Centre(Tronto),20-26 August, 2016, W-T-222
(2) 福田朋恭,大坂一生,川崎英也,荒川隆一,第64回質量分析総合討論会,ホテル阪急エキスポパーク,大阪,2016年,5月18-20日,1P-43
6.関連特許(Patent)
なし

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