利用報告書

モノクロロEDO-TTF(EDO-TTF-Cl)の陽イオンラジカル塩のⅩ線構造解析とラマン分光
上中 敬太1), 石川 学2), 中野 義明2)
1) 京都大学大学院理学研究科, 2) 京都大学低温物質化学研究センター

課題番号 :S-15-MS-1073
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :モノクロロEDO-TTF(EDO-TTF-Cl)の陽イオンラジカル塩のⅩ線構造解析とラマン分光
Program Title (English) :X-ray structure analysis and Raman spectroscopy of radical cation salts of mono-chlorinated EDO-TTF (EDO-TTF-Cl)
利用者名(日本語) :上中 敬太1), 石川 学2),中野 義明2)
Username (English) :Keita Uenaka1), Manabu Ishikawa2)
所属名(日本語) :1) 京都大学大学院理学研究科, 2) 京都大学低温物質化学研究センター
Affiliation (English) :1) Graduate Scool of Science, Kyoto University, 2) Research Center for Low
Temperature and Materials Science, Kyoto University.

1.概要(Summary )
EDO-TTF-ClとAg(CN)2との陽イオンラジカル塩は、電解時の溶媒選択で異なる塩を与えた。EtOHからはドナーがβ‘的配列とβ“的配列をそれぞれ持つ2種の2:1塩①および②が、2-PrOHからはα“的ドナー配列を持つ組成未確定の塩③が、さらにEtOH+H2O混合溶媒からは、ドナーが等しい占有率で2つの配向を持ち、θ的、α“的、およびβ“的な配列となり得る組成未確定の塩④がそれぞれ得られた。上記4種の結晶の内、④では、晶系はMonoclinic、空間群がC2/cとして構造解析がなされていた。格子体積はドナー24分子をも含む非常に大きなもので、薄い結晶同士が張り合わせになった可能性があった。そこで、微結晶での結晶格子決定を行った。また、4種の塩および関連物質の温度可変ラマンスペクトルの解析から、各塩の電子構造の詳細について追跡を行った。
2.実験(Experimental)
極微小結晶用単結晶X線回折装置(Rigaku 4176F07)を用いて、室温におけるX線結晶構造解析を行った。および温度可変ラマンスペクトルの測定では、顕微ラマン分光装置RENISHAW in Via Reflexを用い、主に532 nmおよび633 nmでのスペクトル測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
EtOH+H2O混合溶媒から得られた微結晶では、示唆された格子体積はC2/cの場合の1/6であった。これは2-PrOHから得た結晶(晶系Monoclinic、空間群P21/c)のものと類似しており、この事から、ディスオーダーの単位となる格子のサイズはα“的な格子と共通していると考えた。また、ラマンスペクトル測定の結果、①のスペクトル(633 nm励起)は以前に測定したβ‘-(EDO-TTF-Cl)2XF6 (X = P As, Sb)と温度変化も含め酷似しており、ドナーは+0.5価であると示唆された。②のスペクトル(633 nm励起)は、空気中では0価と+1価にはっきりと不均化したものであったが、真空中では室温でスペクトルが消失した。低温でブロードなバンドが再出現した後先鋭化する事から、動的電荷不均化が示唆された。③のスペクトルは633 nmでは観測されず、532 nmで0価と+1価が共に観測され、電荷不均化状態が示唆された。④のスペクトル(633 nm励起)は、挙動が②と類似しており、S/N比は②よりも悪かった。③が633 nmでシグナルを持たなかったことから、④の結晶中では、β“的およびα“的ドナーレイヤーがランダムに共存していると考えた。電気抵抗率が①(1×10-2 Ωcm) << ②(1×101 Ωcm) < ④(4×101 Ωcm) << ③(2×103 Ωcm)であることも上記の推定を支持していると考えられる。 4.その他・特記事項(Others) 技術職員様2名のご助力を頂きました。 賣市 幹大 様、岡野 芳則 様 5.論文・学会発表(Publication/Presentation) (1) ○大江 佳毅、髙橋 佑輔、中野 義明、石川 学、大塚 晃弘、矢持 秀起、賣市 幹大、第9回分子科学討論会2015東京2D13 (2) ○石川 学、前里 光彦、中野 義明、平松 孝章、賣市 幹大、大塚 晃弘、矢持 秀起、齋藤 軍治、第9回分子科学討論会2015東京2D18 (3) ○上中 敬太、石川 学、中野 義明、矢持 秀起、第9回分子科学討論会2015東京2P039 (3) ○石川 学、中野 義明、賣市 幹大、大塚 晃弘、矢持 秀起、日本化学会第96回春季年会3E7-37(英語講演) 6.関連特許(Patent) なし。

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.