利用報告書
課題番号 :S-17-JI-0005
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :リン酸イオンと結合する新規金属錯体の開発
Program Title (English) :Development of Phosphate Capture Molecules
利用者名(日本語) :浅川 大樹
Username (English) :D. Asakawa
所属名(日本語) :国立研究開発法人 産業技術総合研究所
Affiliation (English) :National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
1.概要(Summary )
一般的に、タンパク質の同定は質量分析法による分析結果をデータベースと照合することで行われるが、未知の翻訳後修飾を含むタンパク質の同定には対応できないことが多い。従って、データベースを用いずマススペクトルから直接タンパク質のアミノ酸配列を決定するデノボシークエンシングによるタンパク同定も重要である。正確なタンパク質アミノ酸配列同定には、タンパク質を規則的に分解する手法が必要であり、これはタンパク質イオンのラジカル化反応により実現されている。タンパク質のラジカル化に伴うフラグメンテーションとして最も広く用いられている手法は電子移動解離法(ETD)である。ETDはタンパク質の多価イオンとラジカルアニオンの再結合反応により、目的のタンパク質をラジカル化させ、タンパク質主鎖のN–Cα結合の選択的フラグメンテーションを誘起する手法である。ETDはペプチド・タンパク質のアミノ酸配列に有用な手法であるが、分解効率が低いことが欠点である。私は昨年度よりリン酸基と特異的に結合する金属錯体を用いてETDの効率改善を試みている。(参考文献を参照)本年度は更なる高感度化を実現するため、新規金属錯体の設計と合成、性能評価を行った。
2.実験(Experimental)
2,6-bis[(N,N′-bis[2-picolyl]amino)methyl]-4-tertbutylphenol (以後”L”と表記する)はp-cresol, p-formaldehyde, bis(2-pyridylmethy)amine から合成した。合成したリガンドの構造確認およびリン酸化ペプチドと金属錯体複合体のETD質量分析はBruker社SolariX FTを用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
リン酸化ペプチド試料と金属錯体を混合し、エレクトロスプレーイオン化質量分析法で分析を行ったところ、複合体の形成を確認した。錯体としては銅、亜鉛、ガリウムを金属中心とするものを用いたが、亜鉛錯体(Zn2L)を用いたときにリン酸化ペプチドのシークエンシングに有用な結果が得られた。参考文献で用いた金属錯体よりも本研究で合成した新規錯体を用いることで、ETDによる分解効率が向上することを確認した。本研究でもちいた二核金属錯体Zn2Lを添加することにより、これまで分析の難しかったリン酸化ペプチドのアミノ酸配列解析が行えるようになった。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献.D. Asakawa, I. Osaka, Anal. Chem. 2016, 88, 12393-12402.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 浅川大樹、宮里朗夫、大坂一生、Frédéric Rosu、Valérie Gabelica、第65回質量分析総合討論会、平成29年5月19日
6.関連特許(Patent)
なし