利用報告書
課題番号 :S-16-SH-0015
利用形態 :共同研究利用
利用課題名(日本語) :ルテニウム酸化物(SrRu1-xFexO3(0≤x≤1)およびSr2RuO4)における磁性と電気伝導の研究
Program Title (English) :Electrical transport properties of ruthenium oxides (SrRu1-xFexO3(0≤x≤1) and Sr2RuO4) correlated with magnetism
利用者名(日本語) :大日方優輝1), 神原 浩2)
Username (English) :Y. Obinata1), H. Kambara2)
所属名(日本語) :1) 信州大学大学院教育学研究科, 2) 信州大学学術研究院教育学系
Affiliation (English) :1) Graduate school of Education, Shinshu University, 2) Faculty of Education, Shinshu University
1.概要(Summary )
磁性(特に強磁性)が電気伝導に及ぼす効果として,スピン依存伝導がある。本研究では,ペロブスカイト酸化物SrRu1-xFexO3(0≤x≤1)および層状ペロブスカイト酸化物Sr2RuO4試料を用い,バルクにおける磁性と電気伝導測定で試料を評価したうえで,ブレーク接合法による微細接合での電気伝導特性測定からスピン依存伝導現象について研究した。SrRu1-xFexO3は,x=0で転移温度160 Kの強磁性,x=1で反強磁性を示すことが知られている。本研究では特に,x < 0.15 における領域に着目し,バルクにおいては明らかな強磁性であるが,ミクロな微細接合での電気伝導特性にどのような影響が現れるかを重点的に調べた。ちなみに,Sr2RuO4は常磁性の参照物質である。
2.実験(Experimental)
バルク試料においては,PPMSにより,1.9~300 Kの範囲において,6 Tまでの磁場下での磁気抵抗測定を行った。また,PPMS-VSMオプションによる磁化測定を行い,バルク試料での磁化-温度,磁化-磁場曲線から強磁性もしくは常磁性状態の試料評価を行った。微細接合の電気伝導特性測定は,教育学部内の別の自作装置により行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
SrRu1-xFexO3(x=0, 0.05, 0.10, 0.15)において,xの増加に伴い,バルクでは転移温度がやや抑制されるものの,明らかに強磁性状態であることを確認した。しかし,電気伝導特性からは,x=0.15で金属的から半導体的な温度変化に大きく変化し,それに応じて,負の磁気抵抗効果が顕著となることが分かった(負の磁気抵抗変化の大きさは,6 Tまででx=0ではほぼ0%に対し,x=0.15では約10%)。これは巨大磁気抵抗のメカニズムを反映したスピン依存伝導現象である。これらの試料を用いて,微細接合における電気伝導特性測定を行った。その結果,バルクとは対照的に,x=0でスピン平行,反平行磁区間の2種類における伝導を反映したと考えられる特徴的な微分コンダクタンス構造(ゼロバイアス電圧を対称にpeakとdipの2種類の構造)を見出した。この変化の見られるエネルギーは強磁性の交換分裂エネルギー程度であることが判明した。一方,xを増加させていくと,局所的に伝導の経路を制限していくため,実効的にFe不純物としての影響が強く現れ,乱れによる弱局在効果を反映したコンダクタンスの抑制が支配的となることが分かった。バルクと微細接合による電気伝導測定を通して,スピン依存伝導についての描像に新たな知見を加えた。
4.その他・特記事項(Others)
本研究では,PPMSおよびVSMオプションを使用するにあたり,信州大学カーボン科学研究所 橋本佳男教授,森本信吾研究員,姜天水氏,倉田智恵子氏に技術支援,運用支援を賜りました。ここに感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H. Kambara, Y. Obinata, K. Tenya, and H. Tsujii, Jpn. J. Appl. Phys. 55, 093004 (2016).
(2) 大日方優輝,神原浩,天谷健一,辻井宏之, 日本物理学会2016年秋季大会, 平成28年9月15日.
6.関連特許(Patent)
なし