利用報告書

一酸化窒素ラジカルを内包するフラーレンのパルス電子スピン共鳴によるスピン緩和過程の研究
加藤立久1), 村田靖二郞2)
1) 京都大学国際高等教育院, 2) 京都大学化学研究所

課題番号 :S-18-MS-1083
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :一酸化窒素ラジカルを内包するフラーレンのパルス電子スピン共鳴によるスピン緩和過程の研究
Program Title (English) :Measurements of the spin relaxation process for NO in open fullerene by a pulsed ESR
利用者名(日本語) :加藤立久1), 村田靖二郞2)
Username (English) :T. Kato1), Y. Murata2)
所属名(日本語) :1) 京都大学国際高等教育院, 2) 京都大学化学研究所
Affiliation (English) :1) ILAS、Kyoto University, 2) ICR、Kyoto University

1.概要(Summary )
 一酸化窒素NOラジカルは、軸対称な 軌道上に不対電子を持つため、電子スピン軌道相互作用が強く影響して、気相状態(無摂動状態)では明瞭なESR信号が得られなかった。最近、提案者らは外科手術的有機化学合成法でNOラジカルがフラーレンケージC60に内包された分子(NO@openC60)を得て、明瞭な1H-NMR信号とESR信号を観測することに成功した。そのスペクトルは強い測定温度依存性を示しており、本施設利用ESR装置を用いて、電子スピン緩和過程を追跡して、その分子磁性を明らかにすることを目的とした。
2.実験(Experimental)
NO@openC60のCS2凍結溶液を、施設利用設備ESR Bruker E680,E500分光器と温度可変装置Oxford Instruments model ITC500の組み合わせを用いて、極低温4K~室温までの温度範囲でCWならびにパルスESR測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 極低温5Kで得たパルスESR測定による、電子スピンエコー磁場掃引スペクトル(ESEFSスペクトル-図1.)は、CWスペクトルと良い対応関係を示した。

図1.NO@openC60の5KでのESEFSスペクトル.
ESEFSスペクトルの共鳴磁場において、電子スピンエコー信号減衰変調スペクトル(ESEEMスペクトル-図2.)に、鋭い13Cと1Hの核スピンZeeman周波数が観測され、また二次元HYSCOREスペクトルにも同じ周波数に対角ピークが観測された。温度が40Kを超えると、電子スピンエコー信号が観測されなくなった。以上の結果から、極低温領域では、電子スピン緩和時間T1,T2は共に数百マイクロ秒から1ミリ秒と十分に長く、温度が40Kを超えると数ナノ秒以下まで急激に減少していることが確かめられた。このことは、極低温では13Cと1Hの核スピンZeeman周波数に加えて14N核スピンとの超微細相互作用(HFC)に由来するパルスENDOR信号が得られたことで確かめられた。

図2.NO@openC60のESEEM、二次元HYSCOREスペクトル(測定温度5K)

4.その他・特記事項(Others)
    なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Hasegawa, S.; Hashikawa, Y.; Kato, T.; Murata, Y. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 12804–12808.
(2) ○HASEGAWA, Shota; HASHIKAWA, Yoshifumi; KATO, Tatsuhisa; MURATA, Yasujiro, 第99回化学春季年会(甲南大学), 平成31年3月16日.
6.関連特許(Patent)
    なし

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.