利用報告書
課題番号 :S-19-MS-2002
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :不活性化した半導体基板上に成長させたフタロシアニン薄膜の電子状態と磁性
Program Title (English) :Electronic states and magnetism of phthalocyanine thin films grown on passivated semiconductor substrates
利用者名(日本語) :大野真也1)
Username (English) :S. Ohno1)
所属名(日本語) :1) 横浜国立大学大学院工学研究院
Affiliation (English) :1) Graduate School of Engineering, Yohama National University
1. 概要(Summary)
シリコン基板上に作製される有機薄膜は、FET、LED、太陽電池、磁気メモリなど多様な応用が期待されており、重要な物質材料である。磁性フタロシアニン分子では、配向、配列構造、分子間相互作用、分子-基板相互作用と電子状態、磁性の関係に興味が持たれているが、まだ十分には解明されていない。本研究では、NEXAFSとXMCDを用いて配向と磁性の情報を得ることを目的として研究を行った。
2. 実験(Experimental)
SiO2を基板として作製された単層CVDグラフェン(以下、Gr)上に数原子層のFePc薄膜を蒸着し、NEXAFS測定とXMCD測定を行うことにより分子配向と磁性に関する知見を得た。自然酸化膜(以下、SiO2)上および水吸着Si(001)表面(以下、H2O/Si)上に成長させたFePc薄膜との比較も行った。試料は、液体ヘリウムを用いて約7 Kに冷却して測定した。NEXAFS測定では、NのK吸収端について入射角をとしてθi=0°, 15°, 30°, 45°, 55°の条件で測定を行い配向角を定量化した。XMCD測定では、θi=0°,55°の条件で測定を行い,FeのL吸収端について±5 Tの磁場を印加し差分信号を得た。
3. 結果と考察(Results and Discussion)
SiO2とH2O/SiではMCDスペクトルの形状が類似しているが、Gr上の場合ではMCDスペクトルの形状が明瞭に異なることが分かった。これまでの測定では、膜厚を薄くすることにより、基板構造の影響を調べることに重点を置いていた。この場合、SiO2とH2O/Siを比較することにより定量的な違いを議論することができる(下記、学会報告)。しかしながら、総和則を用いた軌道磁気モーメントとスピン磁気モーメントの分離定量化は困難な状況であった。そこで、膜厚条件をあらためて最適化し、Gr,SiO2,H2O/Siのいずれにおいても総和則の解析を遂行し得る実験データを得ることができた。
FePc分子では、フント則の第一規則が破れることにより、S=2ではなくS=1が基底状態になると考えられている。S=1の状態に対応する電子配置にはいくつか候補があるが、見解が分かれている。
本実験結果は、不活性な非磁性基板上において、基板の条件を変えることによりFePc薄膜の構造や磁性が変化し得ることを示している。基板との相互作用が小さいにも関わらず、どの様にしてこれらが変化するかについて考察を進める予定である。
本実験と並行して、SAGA-LSにおいて放射光光電子分光による測定を進めた。その結果によれば、価電子状態において明瞭なシフトが認められる。このシフトが、基底状態の電子・スピン配置にどの様な影響を与えるかを考察することが課題である。
また、NEXAFS測定ではFePcの分子配向について精密な知見が得られている。平均的な配向角について、大きな差異は認められないが、それにも関わらず電子状態、磁性に変化が表れている。その要因を検討することも、今後の課題である。
4. その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
大野他,物理学会2019年秋季大会(10pPSB-12),令和元年9月10日.
6.関連特許(Patent)
なし。







