利用報告書
課題番号 :S-15-MS-0043
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :二ホウ化物薄膜上エピタキシャルゲルマネンの電子状態測定
Program Title (English) :Electronic structure of epitaxial germanene on diboride thin films
利用者名(日本語) :Antoine FLEURENCE, 粟谷 悠人, Steaphan WALLACE, 高村 由起子
Username (English) :A. Fleurence, Y. Awatani, S. Wallace, Y. Yamada-Takamura
所属名(日本語) :北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科
Affiliation (English) :School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology
1.概要(Summary)
近年注目を集める二次元材料の一つに、Ge版グラフェンと言われる「ゲルマネン(germanene)」がある。Pt、Au、Alなどの金属単結晶上への形成が報告されているが、その電子状態を測定した例は少ない。利用者のグループは、Si(111)基板上にZrB2(0001)薄膜を成長した際にエピタキシャルシリセンが自発的に形成されるのと同様にGe(111)基板上にZrB2(0001)薄膜を成長した際にその表面にエピタキシャルにGe層が形成されることを見出した。このGe層についてUVSOR施設BL6Uの高分解能角度分解光電子分光装置を用いて測定したところ、ディラック・コーン(DC)様の電子状態が観測された。本課題は、この電子状態が円錐状なのか否かを、機能性バンド構造顕微分析システムを用いて明らかにする目的で行なわれた。
2.実験(Experimental)
本研究の測定対象であるエピタキシャルGe層は、利用者の研究室の超高真空化学気相成長装置を用い、高純度金属ボロハイドライド蒸気を原料としてGe(111)ウェハー上に成長させた単結晶配向ZrB2薄膜上に自発的に形成される。薄膜試料を大気中に取り出すと、Ge層を含めてその表面が酸化されるが、超高真空中で800℃程度に加熱することで酸化膜が除去され、ZrB2(0001)上にGe層が再形成される。この現象を利用し、4×10 mm2の大きさに切った薄膜試料を機能性バンド構造顕微分析システムに導入し、通電加熱により酸化膜を除去してGe層を再形成した。エピタキシャルGe層はZrB2(0001)-(√3×√3)再構成構造を形成するので、低速電子線回折によりその形成を確認することができた。今回の実験では、特に前出のDC状の電子状態に着目し、電子状態の二次元波数空間マッピングをフェルミ準位近傍のエネルギー領域で行うことで、波数空間における三次元的な電子状態の分散の様子を調べた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
ZrB2(0001)上Ge層の走査トンネル顕微鏡像から、格子定数が4.1Å のGeの蜂の巣格子(ゲルマネン)の(4×4)格子がZrB2(0001)の(3√3×3√3)格子と一致する積層構造モデルを考えた。このゲルマネンのモデルとこれまでの実験結果を比較すると、ZrB2(0001)のM点よりややΓ点寄りで観察されたDC状の電子状態の頂点の位置が、ちょうど自立ゲルマネンでDC状の分散が予測されるK点に相当する。そこで、機能性バンド構造顕微分析システム中で再形成されたエピタキシャルGe層に対して、Heプラズマからの紫外光(hν= 21.2 eV)を用いてこの電子状態の室温における二次元波数空間マッピングを行なったところ、DC状の電子状態は、その頂点を中心として、波数空間上でZrB2(0001)のΓ-M方向に同じ距離だけ離れた二つの円錐状の電子状態が重なり合って生じたものであることが分かった。この二つの電子状態は、その対称性からその中間点がK点であることと矛盾するため、ゲルマネンモデルでは説明できず、新たなモデルの構築と電子状態の理解が必要であることが明らかとなった。
4.その他・特記事項(Others)
機能性バンド構造顕微分析システムを用いた電子状態測定を行なうにあたり、山根宏之先生には最初から最後まで大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) A. Fleurence, R. Friedlein, H. Yamane, H. Kim, Y. Awatani, S. Yoshimoto, K. Mukai, T. Koitaya, Y. Hasegawa, J. Yoshinobu, N. Kosugi, Yukiko Yamada-Takamura, American Physical Society March Meeting 2016, 平成28年3月17日.
6.関連特許(Patent)
なし。







