利用報告書

低放射化MgB2超伝導線材の超伝導特性におけるボロン同位体原料の調査
菱沼 良光
核融合科学研究所

課題番号 :S-16-MS-1003
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :低放射化MgB2超伝導線材の超伝導特性におけるボロン同位体原料の調査
Program Title (English) :Investigation of the boron isotope raw material on superconducting property of low activation MgB2 superconducting wire
利用者名(日本語) :菱沼 良光
Username (English) :Y. Hishinuma
所属名(日本語) :核融合科学研究所
Affiliation (English) :National Institute for Fusion Science (NIFS)

1.概要(Summary )
MgB2 超伝導体は構成元素の半減期が非常に短い事から、「低放射化超伝導体」という側面も持っており、核融合炉や加速器等の巨大科学分野だけでなく、将来の高分解能MRIや放射化科学分野等の更なる発展への寄与が期待できる材料である。
本研究では、昨年度に得られたデ-タを基に、完全同位体分離された中性子照射に対して安定な11B同位体粉末粒径を1000 nm以下に分級した原料を用いた際の超伝導特性(臨界温度(Tc)及び臨界電流特性(Jc))についてホウ素組成依存性を調査した。20Kの磁化履歴曲線から見積もられたJc特性から、化学量論組成に相当するホウ素組成(1.97)で最大のJc特性が得られた。このことから、分級されたホウ素原料を用いることで、MgB2超伝導相の生成に過不足なく供給されていることが示唆された。
2.実験(Experimental)
粒径が1000 nm以下になるように分級された11B同位体非晶質粉末、Mg金属粉末及びCu添加源となるMg2Cu化合物をそれぞれ用意し、前駆体粉末を作製した。前駆体の化学量論反応式は以下の通りである。
(0.94 Mg+0.03 Mg2Cu)+1.97 (11B)
= 0.985 Mg11B2+0.015 MgCu2
本研究では、B-11同位体の化学量論組成と違うモル比(B=1.77、1.87、1.97及び2.07)の前駆体も用意し、それぞれPIT法にてMgB2単芯線材を作製した。作製した線材について低温拡散熱処理を施し、その一部をSQUID型磁化測定装置(Quantum Design MPMS-7及びXL7)に挿入し、20Kにおける磁化履歴を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
生成したMgB2超伝導相の体積分率や結晶粒自体のJcのポテンシャルは、磁化履歴から見積られる磁化幅を基にしたBean modelでおおよそ推測できることが知られている。Fig.1に分級された11B同位体を原料としたMgB2線材の磁化履歴曲線におけるホウ素組成依存性を示す。ホウ素組成が大きくなるに伴って磁化幅が増大し、化学量論組成のB=1.97で最大の磁化幅が得られた。これは、1.97組成が最も多くのMgB2相が生成されたことを意味しており、11B同位体粉末の粒径が1000 nm以下に分級されたことで、Mgとの拡散反応が促進されたことを示唆している。一般的に、Mgのホウ素への拡散距離がおおよそ600 nmであることに起因してことから、MgB2超伝導相が過不足なく生成し、Mgや11B同位体等の未反応原料及びMgB2生成過程中の不純物生成量が軽減されたためであると考えられる。今後は、同原料を用いた多芯線材を試作する予定である。
4.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Hishinuma et al, SUST, under review

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