利用報告書

光エネルギー変換物質の励起状態の研究
松岡秀人(大阪市立大学大学院理学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1072
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :光エネルギー変換物質の励起状態の研究
Program Title (English) :Excited States of Photo-energy Conversion Compounds
利用者名(日本語) :松岡秀人
Username (English) :H. Matsuoka)
所属名(日本語) :大阪市立大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science、Osaka City University

1.概要(Summary )
ユニークな発光特性や磁性を示すπ共役系の有機分子は、太陽電池や有機LEDなど有機エレクトロニクスの基盤となる化合物群として注目されている。有機LEDでは、電極から電子とホールを注入することで、有機活性層から発光が得られる。蛍光のみを用いる有機LEDでは、内部量子効率は25%に制限されるが、統計的優位により、りん光性分子を用いることでその上限は改善され、より高い発光効率の材料開発が可能であると期待されている。本研究では、置換基の導入で吸収や発光特性を変化させることができるNDI誘導体に注目した。これまで、軽元素のみからなるNDI誘導体では、ほとんどりん光は観測されてこず、励起三重項状態の電子スピン構造についての研究は皆無であった。定常状態の発光測定と時間分解測定により、りん光の観測、ならびに時間分解EPRと量子化学計算により、励起三重項状態の電子スピン構造についても明らかにした。また、有機LEDなど光エネルギー物質で重要な電子-正孔対に着目した研究も行った。具体的には、我々は、光照射により 半導体中にランダム生成したトラップ電子と正孔のスピン間ダイポール相互作用をパルス電子二重共鳴法(PELDOR法)により調べ、相互作用距離について考察した。

2.実験(Experimental)
定常状態の発光測定は蛍光分光光度計(HORIBA SPEX Fluorolog3-21)を、発光の短寿命測定はピコ秒レーザー(Spectra-Physics、Quantronix Millennia-Tsunami、TITAN-TOPAS)を用いて行った。PELDOR法は電子スピン共鳴装置(Bruker E680)を用いて行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
本研究で合成したNDI誘導体をSchemeに示す。発光特性を明らかにするため、時間分解発光測定を行った。光源ON時のみ見られる470 nm付近の発光に加えて、光源OFF時に長寿命で減衰する発光を600 nm付近に観測した。量子化学計算の結果と合わせて、前者は蛍光、後者はりん光と帰属した。本研究ではまた、りん光のほか、励起三重項状態を用いた発光として知られている熱活性化遅延蛍光を、置換基および電荷状態を変化させることで、観測した。一方で、アルミニウムをドープしたアナタゼ型TiO2結晶に対してAWGを用いたPELDOR測定において、光照射中では遮光時の指数関減衰とは異なる振動が観測され、電子-正孔間の相互作用距離分布について知見を得た。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 秋元郁子, 松岡秀人, 関谷隆夫, 電子スピンサイエンス学会2020, 令和2年11月15日
(2) 松岡秀人, 神崎祐貴, 杉崎研司, 芝野祐樹, 佐藤和信, 秋元郁子, Mukhopadhyay Pritam, 電子スピンサイエンス学会2020, 令和2年11月15日

6.関連特許(Patent)
なし

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