利用報告書

光圧による野生型および変異型シトクロムcのアミロイド線維形成の研究
杉山輝樹1), 廣田俊2)
1) 国立交通大学応用化学系, 2) 奈良先端大物質

課題番号 :S-20-NR-0005
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :光圧による野生型および変異型シトクロムcのアミロイド線維形成の研究
Program Title (English) :Research on amyloid fibril formation of wild-type and mutant cytochrome
c by optical trapping
利用者名(日本語) :杉山輝樹1), 廣田俊2)
Username (English) :T. Sugiyama1), S. Hirota2)
所属名(日本語) :1) 国立交通大学応用化学系, 2) 奈良先端大物質
Affiliation (English) :1) Dep. Appl. Chem, NCTU, 2) Div. Mat. Sci., NAIST

1.概要(Summary )
体内におけるアミロイド線維の沈着は、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病などさまざまな疾患の発症に強く関与している。これら疾患の治療及び予防法を開発するためには、アミロイド線維の生成メカニズムを深く理解することが不可欠である。しかしながら現在、アミロイド線維が生成する場所や時間を正確に予知、特定することは極めて困難であり、これがアミロイド線維の生成メカニズム解明へのボトルネックとなっている。
一方、レーザーを溶液中に急激に絞り込むと、光―物質相互作用により溶液中に溶けた物質に対して勾配力が働き(光圧)、ナノメートルオーダーの分子・クラスターは、レーザー光強度の最も強い集光点に集められる。本研究では、この光圧を利用して、溶液中のジスルフィド(S-S)結合により連結したシトクロムcの二量体を狙った場所、望む時間に集め、アミロイド線維を人工的に、時空間制御しながら作製し、そのS-S結合の位置の違いによる生成のしやすさを議論する。

2.実験(Experimental)
作製したアミロイド線維は、アミロイド線維に特異的に蛍光を発する色素チオフラビンTをプローブとして加えてその蛍光強度をリアルタイムに観測した。また、ナノテクプラットフォーム事業の支援による透過型電子顕微鏡(JEOL, JEM-3100FEF)による線維構造の確認を、物質創成科学領域の藤原正裕、藤田咲子技術職員にお願いした。

3.結果と考察(Results and Discussion)
レーザーを4つの異なる位置にS-S結合を有するシトクロムcの二量体に集光すると、光圧によりシトクロムcが集光点に集められ、照射20-30分程度で凝集体が形成された。この時、蛍光発光強度の大幅な増加が観察された。アミロイド線維の形成を確認するため、TEM観察を行った。TEM画像では、すべての二量体において多数のフィブリル構造とその束が観察された。一方、A83C変異体の二量体のみ、蛍光の増大が極めて弱く、さらに非常に長時間のレーザー照射を必要とすることが分かった。これは、S-S結合の位置がβ-ヘアピン構造に変化する場所にあり、続くアミロイド線維に特徴的なβ-シート構造への構造変化を妨げているためであると考えている。

4.その他・特記事項(Others)
K. Yuyama, M. Ueda, S. Nagao, S. Hirota, T. Sugiyama, and H. Masuhara, “A single spherical assembly of protein amyloid fibrils formed by laser trapping” Angew. Chem. Int. Ed. 56 (24), 6739-6743 (2017).
この共同研究の成果の論文を基に研究を行っている。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
“Artificial fabrication of protein amyloid fibers by optical tweezers” (Plenary)
Teruki Sugiyama, 2021 International Workshop on Emergence of Life-Nano-Bio Science, 令和3年3月10日.

6.関連特許(Patent)
なし

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