利用報告書

光電子分光法による電子状態解析を活用した次世代熱電変換材料の開発指針の確立
宮崎秀俊1), 縣 佑太2) , 木村 和誠2)
1) 名古屋工業大学大学院工学研究科, 2) 名古屋工業大学工学部

課題番号 :S-16-MS-0037
利用形態 :共同利用
利用課題名(日本語) :光電子分光法による電子状態解析を活用した次世代熱電変換材料の開発指針の確立
Program Title (English) :Clarification of electronic structure in next-generation thermoelectric Heusler materials studied by photoemission spectroscopy
利用者名(日本語) :宮崎秀俊1), 縣 佑太2) , 木村 和誠2)
Username (English) :H. Miyazaki1), Y. Agata2), K. Kimura3)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学大学院工学研究科, 2) 名古屋工業大学工学部
Affiliation (English) :1) Department of Physical Science and Engineering, Nagoya Institute of Technology, 2) Department of Environmental and Materials Engineering, Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary )
ハーフホイスラー型ZrNiSnは,バンド計算によると半導体的な電子構造を形成していると考えられているが,精密構造解析および光電子分光測定の結果,ハーフホイスラー構造における空孔サイトにNi原子が侵入することにより,擬ギャップ的な電子構造を形成している可能性が示唆されている1).我々はZrNiSn化合物において,更なる擬ギャップ構造の制御を目的とし,空孔サイトに様々な遷移金属をドーピングしたZr(Ni Mx)Sn (M = Co, Ni, Cu)化合物の作製を行っい熱電特性を調査した結果,空孔サイトへのCuドーピングにより熱電特性は著しく上昇し、最大で1000 KにおいてZT = 0.8にも達した。この値は、これまでにZrサイトにTa置換によって得られた熱電特性と同程度であり、重金属を用いなくても安価なCuのみで高い熱電特性を得られることが明らかになった。
しかしながら、空孔サイトへのドーピング元素が電子構造にどのように影響を及ぼし熱電特性が向上するか、という機能性向上のメカニズムは明確ではなく、更なる材料設計のためには、電子構造を直接観測することが必要である。
そこで、本研究では、高い熱電変換特性を有するZr(Ni Mx)Sn (M = Co, Ni, Cu)化合物の電子状態を明らかにするために、高分解能角度分解光電子方により、電子状態の直接観測を試みた。

2.実験(Experimental)
Zr(Ni Mx)Sn (M = Co, Ni, Cu)合金はアーク溶解したインゴットを粉砕し,焼結体にすることで得た.高分解能粉末X線回折測定はSPring-8 BL02B2にて行った.熱電特性の評価として,ゼーベック係数,電気抵抗率,熱伝導率の測定を室温~1073 Kで測定した.
光電子分光測定には、He-IIの励起光源を用い、エネルギー分解能12 meVに設定し、4.2 Kの環境下で測定を行った。試料の清浄表面は、超高真空・極低温環境下で試料を破断することによって得た。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図1(a)にZrNiCuxSnの光電子スペクトルの結果を示す。Cuドープ量増加により、光電子スペクトルは低束縛エネルギー側へと徐々にシフトすることが確認された。また、CuドープはCoドープ、Niドープと比較してドープ量増加によるスペクトルのブロード化が見られない。これは高分解能粉末X線回折の結果からCuドープによるピーク強度がCoドープとNiドープに比べて小さいことからCuドープによる結晶性の低下がCoドープ、Niドープに比べて小さいためであると考えられる。また、低束縛エネルギー側のEB = 1.0 eVのピークのシフト量はEB = 2.0 eVのピークに比べ小さい。これらの結果から、Cuドープによりフェルミ準位付近の状態密度が変化しつつ、電子ドープによりフェルミ準位もシフトしていることが明らかになった。
図1(b)にZrNiCoxSnの光電子スペクトルの結果を示す。Coドープ量増加により、光電子スペクトルは高束縛エネルギー側へと徐々にシフトすることが確認された。また、Coドープ量増加によりスペクトル全体がブロードになるものの、スペクトルの形状は大きく変化していない。このスペクトルの広がりは、Coドープによる結晶性の低下によるものだと考えられる。ピークのシフト量はCuドープの場合と同様にフェルミ準位近傍のピークの方が小さく、単純な剛体バンドモデルでは説明できないことが明らかになった。
今後は第一原理計算を進めることにより、サイト選択制や空孔サイトへの元素ドーピングによりどのように電子状態が変化するかを実験結果と比較することにより、熱電特性向上のメカニズムを明らかにしたい。
1) H. Miyazaki et al., Mater. Trans. 55, 1209 (2014).

図1  ZrNiCuxSn化合物 (a)およびZrNiCoxSn化合物における高分解能光電子分光スペクトルの組成依存性。

4.その他・特記事項(Others)
本実験の遂行に辺り、極端紫外光研究施設の田中清尚准教授には実験遂行までの準備、装置の使用法、解析に至るまで大変、多くの助言を頂きました。深く感謝致します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) フルホイスラー相が共存したハーフホイスラー型ZrNiSn化合物における熱電特性と局所構造解析, 宮崎秀俊, 伊倉隆介, 青山恭大, 西野洋一, 日本金属学会
(2) 放射光先端分析を活用した高効率熱電変換材料の開発, 宮崎秀俊, 科学技術交流財団 第3回「ホイスラー化合物熱電素子材料による廃熱発電研究会」, 基調講演2016年秋季講演大会

6.関連特許(Patent)
なし。

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