利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1053
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :共有結合性有機フレームワーク化合物の電気伝導性起源解明
Program Title (English) :Electronic Properties Investigation of Covalent Organic Framework Materials
利用者名(日本語) :中村敏和1),浅田瑞枝1),江東林2)
Username (English) :T. Nakamura1), M. Asada1), D. Jiang2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2)北陸先端科学技術大学院大学
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) Japan Advanced Institute of Science and Technology
1.概要(Summary )
共有結合性有機骨格構造(COF)を利用した,2次元COF(2D-COF)は,二次元高分子が積層した多孔性物質であり,触媒や光機能を持つことで着目されている.構成ユニットにより,COF構造,孔サイズの制御が容易であり,それに付随して機能を制御できることが最大の特徴である.近年,COF構造を利用してドナー・アクセプター系を構成ユニットとした,有機太陽電池開発が精力的に行われている.現在までに,様々な2D-COFで光伝導性が見いだされ,そのメカニズムとして,高効率な光誘起電子移動が示唆されているものの,その実験的証拠,および,光伝導メカニズムについては明らかにされていない.一方で,ヨウ素ドーピングにより飛躍的に電気伝導度が増大するCOFも最近開発された.本課題では,定常法ならびに時間分解ESR測定により,これら伝導電子を有するCOFのキャリアの起源ならびに低温電子状態を理解することを目的とする.
2.実験(Experimental)
SQUID磁束計(磁化の温度変化,磁場変化)
電子スピン共鳴(CW法による温度変化,Nutation法)
X-band ESRにより,ヨウ素ドープを施したCOFのESR強度を時系列で観測する.ESR強度はスピンキャリア数に比例するので,キャリア生成の時間依存性が理解出来る.また,ESR共鳴磁場はキャリアの起源を反映しており,スピンの起源に迫ることが出来る.詳細なESR強度ならびにESR線幅の温度依存性を計測することにより,キャリアの遍歴性や電子状態変化,ならびに次元性に関して言及することが可能となる.磁性に関してはSQUID測定を行いESRで観測している信号との整合性を確かめることができた.
3.結果と考察(Results and Discussion)
COFは種々の系が開発されているが,そのうちのテトラフェニルピレンをジシアノキノンで結合した系は,顕著な磁性を示す.粉末状のpristineのCOFをESR試料管に入れ固体ヨウ素を印加したときの,ESR信号のヨウ素ドープ時間依存性を調べた.閉殻であるpristine試料ではESR信号は観測限界以下であるが,ヨウ素ドープとともに顕著なESR信号が現れる.g値は2.003で,またESR線幅は0.12mT(1.2Gauss)程度であり異方性は小さく,芳香族環上にスピンがある事が分かる.ドーピングレベルにかかわらず,g値と線幅はほとんど変化せず,スピン種ならびに電子状態が変化していない.信号強度は,ヨウ素ドープから1日程度で頭打ちになり,2日程度で飽和する.ほぼ芳香環1ユニットに0.5スピン以上のスピン生成している.低温の電子挙動などについて,理解が深まった.
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 浅田瑞枝,中村敏和,金恩泉,王ピン,江東林, 第55回電子スピンサイエンス学会年会, 平成28年11月11日
(2) 浅田瑞枝,中村敏和,金恩泉,王ピン,江東林, 第72回日本物理学会学会年次大会, 平成29年3月19日
6.関連特許(Patent)
なし







