利用報告書

共有結合性有機骨格構造体の磁性研究
浅田瑞枝1),中村敏和1),江東林2)
1) 分子科学研究所, 2)シンガポール大学

課題番号 :S-18-MS-1092
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :共有結合性有機骨格構造体の磁性研究
Program Title (English) :Magnetic Investigation of Covalent Organic Framework Materials
利用者名(日本語) :浅田瑞枝1),中村敏和1),江東林2)
Username (English) :M. Asada1), T. Nakamura1), D. Jiang2)
所属名(日本語) :1) 分子科学研究所, 2)シンガポール大学
Affiliation (English) :1) Institute for Molecular Science, 2) National University of Singapore

1.概要(Summary )
2005年のO.M. Yaghiらの報告以降,金属有機構造体共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Frameworks)などの多孔質物質の研究が爆発的に進んでいる.これらの構造体の多くは,共有結合あるいは配位結合で結ばれた多孔性物質であり,ガス貯蔵・分離能や触媒機能への応用が期待されている.近年では,構造の特異性だけではなく,電子物性を付加した多孔性物質の開発もめざましい.ドナー・アクセプター系2次元共有結合性有機構造体の1つであるZnPc-NDI COFは電荷分離した遍歴性キャリアが室温でも極めて長い寿命を持つ.一方で,最近になり平衡状態で電子スピンをもつ系の開発が進んでいる.江らは,芳香族をイミンやシアノ基で結合した新しいタイプのCOFの開発を行っている.この系はZnPc-NDI COFと同様に,2次元的な多孔質構造をもち,芳香族環は垂直方向に積層したカラム構造をとっている.この系は閉殻であるが,ヨウ素をドープする事により電子スピンが生成される.我々はヨウ素ドープ共有結合性有機構造体の電子物性電子状態を理解するために,ESRならびにSQUID測定による磁性研究を行っている.

2.実験(Experimental)
ヨウ素印加過程,温度変化ES測定は分子科学研究所機器センター保有のBruker E500で行った.SQUID測定は,分子科学研究所機器センター保有のQuantum Design MPMS-7ならびに MPMS-XL7を用いている.液体ヘリウムは分子科学研究所機器センターから供給・支援されている.

3.結果と考察(Results and Discussion)
種々の系が開発されているが,特にテトラフェニルピレンをジシアノキノンで結合したpy-sp2c-COFと称される系は,顕著な磁性を示す.粉末状のpristineのpy-sp2c-COFをESR試料管に入れ固体ヨウ素を印加したときの,ESR信号のヨウ素ドープ時間依存性を図1に示す.閉殻であるpristine試料ではESR信号は観測限界以下であるが,ヨウ素ドープとともに顕著なESR信号が現れる.g値は2.003で異方性小さく,芳香族環上にスピンがある事が分かる.ドーピングレベルにかかわらず,g値と線幅はほとんど変化せず,スピン種ならびに電子状態が変化していないことが分かる.ヨウ素ドープによる導電性キャリアが生成する場合には,緩和時間が早くなるために一般にはESR線幅は増大する.信号強度は,ヨウ素ドープから1週間程度で飽和する.

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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