利用報告書

分子の集合化によって生じる絡み合い構造の構築とその機能化
内藤順也, 徳永雄次(福井大学学術研究院工学系分野)

課題番号 : S-20-MS-1051
利用形態 :機器センター施設利用(ナノテクノロジープラットフォーム)
利用課題名(日本語) :分子の集合化によって生じる絡み合い構造の構築とその機能化
Program Title (English) :Construction of molecular entanglement and its application
利用者名(日本語) :内藤順也, 徳永雄次
Username (English) :M. Naito, Y. Tokunaga
所属名(日本語) :福井大学学術研究院工学系分野
Affiliation (English) : Faculty of Engineering, University of Fukui

1.概要(Summary )
申請者らは、絡み合う構造の構築に関する研究を行っており、これまでに、機械的な結合を利用した方法、並びに、ジベンゾクラウンエーテルに架橋鎖を導入する方法(未発表)で、それぞれ異なる絡み合い構造の構築に成功している。本研究では、絡み合った構造を持つクラウンエーテル誘導体の機能化に関する検討を行っており、その金属イオン認識特性について新たなる結果が得られた。また、今後クラウン誘導体の側鎖部変換による機能化を行う予備検討に、発光性を示す母核に数種の側鎖を持つ化合物の発光特性を測定したところ、側鎖の差異に由来する蛍光特性が観測された。

2.実験(Experimental)
クラウンエーテル誘導体の分子認識能:申請者らが合成したクラウンエーテル誘導体は、トリエチレングリコールを架橋鎖に持つクラウン(C3)とテトラエチレングリコールを架橋鎖に持つクラウン(C4)の2種である。C3とC4のそれぞれについて、アルカリ金属イオンに対する認識能について等温滴定型カロリメーター MicroCal iTC200 を用いて検討した。
発光性分子の光学特性検討:申請者らはクラウン誘導体の機能化を目的に、側鎖にオリゴエチレングリコール鎖または種々の鎖長のアルキル鎖を有する発光性分子を合成した。これらの光学特性について蛍光分光光度計 HORIBA SPEX Fluorolog3-21 を用いて検討した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
クラウンエーテル誘導体の分子認識能:等温滴定型カロリメーターを用いた結合能は以下の通りである。C3においては、Li+に対する認識はMeOH中観測されなかったが、Na+や K+では数万、Cs+では数千オーダーの結合定数(M-1)を示し、またNa+が最大の結合定数を持つことを明らかにした。一方、C4について検討したところ、Li+に対する認識は認められなかったものの、Na+では数百、K+で百万、Cs+では十万オーダーの結合定数(M-1)を示した。C3においてNa+が、C4ではK+が最も大きな結合定数を持つことから、両クラウン誘導体の空孔サイズに由来した認識特性が観測されたと考察できる。また、C3とC4を比較すると、C4の方が高い結合能を持つ傾向にある。C3では堅い構造を持つため、酸素原子が金属イオンに配位しにくい構造が安定であることが示唆された。また、C4では自由度が高いため金属イオン認識に対し柔軟に配位できることに加え、より多くの酸素原子を持つことで、高い認識能を持つものと考えられる。
発光性分子の光学特性検討:蛍光分光光度計を用いて種々の発光性分子の集合状態における光学特性を測定したところ、側鎖に長いアルキル鎖を有する分子が、短いアルキル鎖を有する分子と比較して、発光波長の短波長シフトが観測された。発光性部位に対して直接に電子的影響を与えない側鎖の鎖長を変化させることで光学特性に差異が生じた本結果は、本分子群が側鎖の種類により集合特性を変化させ、それが間接的に発光特性に影響を与えうることを示している。

4.その他・特記事項(Others)
本測定でご支援下さいました分子科学研究所機器センターの上田正様ならびに長尾春代様に感謝いたします。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 藤原 拓樹, 内藤 順也, 宮川 しのぶ, 高谷 光,徳永雄次, 2020年度日本化学会近畿支部北陸地区研究発表会, 令和2年11月20日.
(2) 岡田 大和, 内藤 順也, 宮川 しのぶ, 徳永 雄次, 2020年度日本化学会近畿支部北陸地区研究発表会, 令和2年11月20日.

6.関連特許(Patent)
なし

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