利用報告書

分子性超伝導体における電子相の不均一性
山本貴
愛媛大学大学院理工学研究科

課題番号 :S-16-MS-1058
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :分子性超伝導体における電子相の不均一性
Program Title (English) :Inhomogeneity of electronic state in molecular superconductor
利用者名(日本語) :山本貴
Username (English) :T. Yamamoto
所属名(日本語) :愛媛大学大学院理工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science and Engineering, Ehime University

1.概要(Summary )
κ−(ET)2Cu[N(CN)2]X (X = I) はET分子が二次元に配列した伝導体である。我々が作成した結晶で電気抵抗率と磁化率を測定したところ、過去の報告とは異なり、常圧で部分的に超伝導の領域が存在することがわかって来た。そこで、電子相の不均一性の研究対象に適していると考え、同一結晶内、および、単結晶毎に、電子相が異なる様相を探索することにした。本研究では、単結晶毎の違いの探索、および、表題物質に特徴的な分子間相互作用の探索を行なった。

2.実験(Experimental)
機器センターの顕微ラマン分光器とヘリウムクライオスタットを用い、低温に置けるC=C伸縮振動の挙動を観測することで、分子間相互作用とその結晶依存性を調べた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
図に1個の単結晶の測定結果を示す。この波数領域にはC=C伸縮振動が観測され、ν2・ν3・ν27モードが存在する。ν2モードに着目し、カーブフィッティングを行なったところ、最低7種類のν2モードが存在することが分った。この現象は、X線構造解析で予測されるような対称性の高い分子間相互作用では説明できない。また、ν2モードの波数は分子の電荷量にも鋭敏なので、電荷量の異なる分子が対称性の低い並び方をしていることが示唆される。もし、一種類の並び方であれば、因子群の要請から最大4種類のν2モードが観測されるはずであり、本測定の結果から少なくとも二種類の並び方が共存していることが示唆される。複数の他の結晶でも測定を行なったところ、若干の波数の違いがあったものの同様の結果を得た。
この結果は、分子間相互作用の異なる電荷不均一状態が同一結晶内に共存することを示唆しており、半導体-超伝導転移や金属-超伝導体転移に到る分子間相互作用の特定に向けた研究の足がかりになることが期待される。

図 κ−(ET)2Cu[N(CN)2]X (X = I)の6 Kにおけるラマンスペクトル。励起光は785 nmレーザーである。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) “κ−(ET)2Cu[N(CN)2]Iの伝導性・磁性における異常性” 中村祐介、山本貴、内藤俊雄、小西健介、松下幸一郎、中澤康浩、 日本化学会第97春季年会, 平成2017年3月16日

6.関連特許(Patent)
なし

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